序章 任務地へ

第1話  雑用係 天路遥斗

 とあるアパートの一室。まだ外は薄暗く静けさが残っていた。


「っ、…ぁ、またこの夢か…」


悪夢にうなされていたのか、びっしりと汗をかき、勢いよくベッドから起き上がったのは、天路遥斗あまじはると18才。突き出された右手は空虚をつかんでいた。  


 普通なら高校に通ってるいような年齢だか、彼が現在所属しているのは《威神の会》。数年前、ある事件に巻き込まれ、それをきっかけにこの界隈、それすなわち、《神通力》を操る者と怪異との争いが繰り広げられている世界に足を踏み入れたのだ。

 

 といっても、すべての人間が《神通力》を意のままに扱えるわけではなく、怪異の存在、ましてやそういった抗争が繰り広げられていること自体、一般人には知られてないのだ。

 

 遥斗は各地に設置された《威神の会》の支部で活動する《神通力》を操り闘うもの、《神術師》の一人である。


 遥斗は汗で額に張り付いた長い前髪を無造作に手でかきあげて、洗面台に向かった。顔を洗い、シャワーをさっと浴びて、やっと意識が覚醒し始めたところで、今日の自分の任務を改めて確認する。


 遥斗の今日の任務は、郊外にある廃工場で、なにやら異常な神力が確認されたとかで、現地調査に派遣されるのだ。


「またこういうのね、まぁしょうがないか」


 と、自嘲気味に愚痴をこぼす。だか、今回の件はおそらくは探知石の誤認だろう。

 

 探知石、俺たちがそう呼ぶのは各支部に置かれている、周辺の神力を探知する石盤上の《神具》である。

《神具》とは、《神通力》が込められた様々な能力を持つ物の総称である。

 

 探知石はたまに、異常な神力を検知することがあるのだが、ほとんどの場合は誤作動なのだ。

 え、なんで誤作動だとわかっているのにそんな調査に向かわされるかって?

 

 理由は単純明解。俺が前線では役に立たない落ちこぼれだからだ。一応、探知したからには調査が必要なのだが、常に人手不足。こういった雑務のような任務は俺みたいなやつに回ってくるのだ。

 今日もおそらくは「特に異常はありませんでした!」で任務完了。なんて楽な仕事だろうか。


 俺はふぁ~っと大きなあくびをしながら支度を進める。今出ると支部に早く着きすぎるが、また寝るわけにも行かないし家でやることもないので家を出ることにした。


「あれ、そういえば今日だっけか?」


いつもと変わらない、任務という名の雑務。ただ、少し違うのは最近威神の会に入った新人が今日からしばらくの間、俺の任務に同行するのだ。まぁ研修期間のようなもんだ。すぐに他の任務をこなすようになるだろう。

 

 どんなやつがくるんだろうか、あんまりなめられるとさすがに落ち込むなぁ、おとなしいやつがいいな

 

 なんて、ぐたぐたと意味のない思考を巡らしながら家の鍵を閉め、古びた中古の軽自動車に乗り込み集合場所へ向かう。


まさか今日あんなことが起こるなど考えもせずに。

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