11話 魔法講師

さて、俺の魔法属性がわかり、行使ができるようになったわけだが。


「さて、リア嬢。まずは座学から始めましょうか」


俺は今、クラリッサに見守られながら、外にある庭にて、魔法についての授業を受けている。


目の前には、数日前に聞いた声。

より詳しく言うなら、王城にて聞いた声。

そう、俺に今教えているのは、アイリーンである。


仮にも星呼びなのに。

暇かよ。


ことの経緯はこうだ。

ありとあらゆる教育が遅れている俺を哀れんだ王様が、教育の遅れを取り戻そうと、アイリーンを魔法講師として送り込んだのだ。今日。


彼女曰く、礼儀作法や教養といったものは、講師がどんな人物であろうと、学院までの四年間でいくらでも習得することができるが、魔法は別だと。

魔法の上達は、たゆまぬ研鑽、理解、発展……といった様々な要素が織り交ざっていて、並大抵の講師では二年の遅れは取り戻せないほどに大きいとのことだ。


そうして、アイリーンは最も優れた魔法使いである私が講師としてきたのだと説明した。


まぁ俺としては願ったり叶ったりなので、それを承諾した。

クラリッサは何やら訝しんでいたが、俺が納得すると、クラリッサもそれに追従した。


さっそく今日から始めましょうと言われて、ここに引っ張り出されたというわけだ。

この体になって初めて踏む緑。

これまでずっと室内にいたから、新鮮な気分だ。

外に出たいといっても、クラリッサが心配するので、出られなかったし。


「リア嬢の魔法属性は土。できることは、固形物に対する変化です」


「変化?」


「ええ、形状を変えることから始まり、果ては性質すら変えることのできる魔法です。四属性の中で最も自由度の高い魔法ですね」


自由度が高い。

その言葉はゲーマー心をくすぐられる。


「今日から行うのは、魔法の発動の、その前段階ですね」


アイリーンが庭の中心に歩いていく。

俺は彼女の発する音を頼りに、ついていく。


アイリーンは、やがて止まり、こちらに振り向いて言う。


「魔法を発動させるには、魔力を励起させる必要があります」


そういうと、突如としてアイリーンの纏う雰囲気がガラリと変わる。

俺たちが踏みしめている雑草は、ざわざわと揺れる。肌に触れる空気も心なしかピリピリしている。


「魔力とは、人が誰しも持ち得る力の源。それを知覚して、思いのままにすることで初めて魔法を使えるのです」


例えば、とアイリーンは手のひらを上に向ける。


「———灯火」


瞬間、肌に感じていた感覚が一層強くなる。

すると、上に向けていた手のひらから、ごう、と大きな炎が発生した。


「わ……ぁ」


「これは火属性の魔法の初歩魔法【灯火】です」


「……いやいやいやいや、灯火というにはあまりにも大きかったですよ」


「魔法とは、使い手によって威力が変わるのです。私は何せ星呼びですから、初歩の魔法でもこのくらいは造作もありません」


ふふん、と何だかドヤ顔をしていそうな、得意げな声色だ。


「では、これからリア嬢には魔力を励起させる方法をお教えします」


アイリーンは俺の手をとる。


「まずは魔力の知覚から。手の力を抜いて、感覚に集中してください」


アイリーンの言葉通りに、力を抜く。

すぐに、アイリーンが握っている手から、何かがこちらに流入してくるのを感じる。


「……これは」


魔力かな。

何だかポカポカしてくる。

この感覚は、そう。鑑定の魔道具を使った際に感じた、包み込まれるような感覚だ。


俺が魔力に反応しているのに気付いたアイリーンが驚きの声を上げる。


「……え!?もう気づいたのですか?」


「ええと、恐らく?包み込んでくるような、暖かい感覚ですよね」


アイリーンは、それを聞いてより驚いた様子で、狼狽えている。


「早い、あまりにも早すぎる」


小声でぶつぶつとつぶやいている。耳がいいので丸聞こえだが。

それを聞くに、俺は天才なのではなかろうか。

リアの体、万歳!


「ええと、そうですね……それでは次の段階に進みましょう」


アイリーンは再度、俺の手を取る。


「また、同じように集中してください」


そうすると、アイリーンの手から魔力がこちらに流入するのではなく、逆にこちらの魔力がアイリーンの方に流れていくのを感じる。


「さっきまでとは違って、アイリーンさんの方に私の魔力が流れていますね。吸収ですか?」


そういうと、アイリーンは魔力の吸収をやめる。


「正解です。さすがですね」


「いや~それほどでも」


アイリーンからの言葉に俺はニヤケが止まらない。

いつだって、人から手放しに賞賛されるのはうれしいものだ。


だが、その笑みはアイリーンが発する言葉によって崩れるのであった。


「では、もう一度、魔力を吸収します。魔力を操作して、吸収を自力で止めてください」


「へ」


え、俺魔力を操作できる気配なんて、微塵もないのだが。


「大丈夫です。魔力を感じることができたならば、割と簡単にできるでしょう。自身の魔力を励起させ、魔力を少しでも動かせれば、自動的に吸収も止まりますから」


「わ、わかりました」


「では、行きますよ」


アイリーンは、俺の手に触れて、魔力の吸収を始める。


動け、動け、動け……。

……え、ピクリともしないんですけど!?


何が簡単なんだこれ。


てか、あれ。

意識がだんだんと……遠のいて……。


「お、お嬢様!?」


「あ、やば、加減ミスった……」


俺の意識は闇に沈んだ。





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