2話 再覚醒からの再気絶
ある日、この世界に突然災厄が現れた。
災厄の名は、【魔王】
魔王と命名されたソレは、瞬く間にこの世界を未曽有の危機に陥れた。
正体不明、目的不明……そもそも生物なのか怪しい存在だ。
ゲームでも終ぞそれらの情報が明かされることはなかった。
魔王の遺失物……肉片などには力が宿っていた。
それはすなわち、摂取したもの……無機物有機物問わず化け物に変えてしまう力だ。
化け物と化した存在を、【魔物】と呼ぶ。
魔物は、人間に対して狂気的なまでの強い敵対心を抱き、襲ってくる。
魔王は魔物を増やした。
ゾンビ映画にあるパンデミックのように魔物は数を増やし、人間を侵略していった。
もちろん、人間もそのまま指をくわえて見ていたわけじゃない。
人間同士での戦闘をしていた者たち、いわゆる戦士や魔法使いたちによって、魔物の侵略は抑えられていた。
だから、国家の上層部は、どうにかなると考えていたのだ。
―――聖地レッドレーヴェン、魔王の手により陥落。
奇妙だがこの世界にはただ一つの宗教がある。
世界宗教ともいうべきそれは、道徳、常識のようなもので、全人類はそれを信じている。
故に、聖地が陥落したというニュースは、世界中に激震が走り、見物をしていた上層部でさえ腰を上げたのだ。
国家はすぐに聖地の奪還を掲げ、軍を組織した。
しかし敗走。
軍を派遣した国家は、間抜けに自分たちの守りが薄くなり、魔物によって陥落した。
事態を重く見た国家は、同じ宗教観に基づく国家間の同盟を結んだ。
その同盟はやがて世界間の同盟にまで発展し、魔王の侵攻をなんとか抑えることができたのだ。
とはいえ、徐々に攻め込まれ、人類は袋小路のネズミのように追い詰められていった。
そんな時、ある青年が魔物にたいして特攻ともいうべき能力があることが発覚したのだ。
その能力は魔王にも有効であると考えられ、青年は勇者と呼ばれた。
だが勇者には戦闘経験が無かった。
だから、師匠ともなるものを用意した。
それが世界最強。
リア=ハウンゼンである。
彼女の指導を受けみるみる成長していった勇者は、やがて魔王を討ち果たす―――。
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―――――――
「……さま、お嬢様!?」
クラリッサの声で目が覚める。
目を開いて、あたりを見渡すが、やはり何も見えない。
ただ、視覚がない代わりにその他五感は、発達しているようで、クラリッサがどこにいるのかぼんやりとわかる。
「ここは……」
「お嬢様、お目覚めになられましたか」
クラリッサは安堵の声をもらす。
「クラリッサ、さん?」
「私に敬称など不要でございます、どうかクラリッサ、とお呼びください」
俺が気絶してから何時間もたっているだろうに、クラリッサは変わらずそこにいた。
「……では、クラリッサ。あなたはずっと、ここに?」
クラリッサはええ、ええと言い、こちらに遜る。
立場としては正しいのだろうが、前世の記憶を持つ俺にとっては、なんだか不思議で、慣れない。
そんな俺をよそに、クラリッサは質問する。
「お嬢様、記憶喪失とのことでしたが、何か思い出せたことはありませんか?何でもよいのです。些細なことでも」
俺は思案する。
ある程度、リア=ハウンゼンのことはゲーム上で知っている。
だが、クラリッサが聞きたいのは、そうではないのだろう。
「……すみません、何も……」
リアに転生したのはついさっきのことで、思い出せるわけもない。
「そうですか……」
クラリッサは落胆する。
まぁ身近な人が記憶喪失になって、何もかも忘れていたら、ショックだろう。
ふと、のどが渇いていることに気付く。
何時間も気絶していたのだから当然ではあるが。
「すみません、なにか、のどを潤せるものは?」
クラリッサは、あっ、と忘れていたような声をあげ、近くにあった水差しからコップに水を入れる。
「失念していて申し訳ございません、どうぞ」
クラリッサは俺の手を優しくつかみ、コップに触れさせ、コップをつかませる。
のどが渇いていた俺はそれを一気に飲み干す。
「っふう、ありがとうございます、クラリッサ」
クラリッサにお礼を言いながらも、俺はあることに気付く。
手が、小さいのだ。
男から女になった程度では済まされないほどに、小さい。
コップを持つ手は安定しないし、その前にも、俺の手をつかむクラリッサの手は、大きかった。
まるで子供と大人のように。
もしや、と悪い予感がしながら、俺はクラリッサに質問をする。
「……クラリッサ、私の年齢って、いくつでしょうか?」
「今年で十歳となります」
「……まじか」
思わず飛び出してしまう言葉。
それは俺にとって、最悪のお告げであった。
ゲーム本編開始がリア=ハウンゼンが二十の頃。
そしてリア=ハウンゼンが魔法と武の道に入ったのは十二歳の時。今の俺は最強キャラには程遠く、ただのか弱き少女なのである。
凡人の俺が今から修業を始めたとて、三年のアドバンテージごときすぐに本来のリア=ハウンゼンに追い抜かれるだろう。
どうせなら途中から、最強の状態で転生したかった。
ただ、一つ。
はっきりしていることがある。
リア=ハウンゼンが最強でなければ、主人公は育たず、魔王に敗北する。
主人公が魔王に敗北すれば、世界は滅亡する。
リアがどれだけ強くなろうとも、主人公以外魔王を殺せない設定なのだ。
俺が強くならなければ、死ぬ。
「\(^o^)/オワタ」
前途多難な未来を想像して、目覚めてまた、気絶した。
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