ゲームの最強師匠キャラに転生して
栗色
第1章 そして私は
1話 最強への転生
最強、それは全人類が憧れる絶対唯一の称号である。
よく誰々が最強か、そんな議論が交わされることもしばしばあるくらいだ。
時に、創作物の中には、議論の余地がないほどの、明確な【最強】が存在する。
主人公ほか、一切のキャラクターを寄せつけないほどの圧倒的な武力を持つキャラクター。
俺はそんな人物になれたら、と思うことがある。
最強になれば苦労なんてなくなるんじゃないか、そんな浅い理由。
「はぁ……」
俺は溜息をつく。
自分でも思う、可愛らしい女声。
俺は男性だ。
平均的な男性の声と同じような低い声だったはずなのに、いまではこんな、きゃぴきゃぴした声になっている。
胸を触っていてもぎり柔らかい感触がある。
男の時はそんなもんなかったのに。
無いのはナニである。
加えて、目が見えない。
たぶん目を開けることはできるが、眠っているときのように、視界が真っ黒でおおわれている。
目が見えないのに視界とはこれいかに。
閑話休題。
俺はこの状態になる前、何があったか振り返る。
現代人として学校に行っていた俺は、授業を終え、部活を終え、帰宅した。
その次に、風呂に入って、飯を食べて、就寝の準備をして、寝た。
間にいろいろあったが、簡単に振り返るとこうだ。
寝て、起きたら、なんかすごい大きなベッドにいて、こうなっていた。
多分女性に。
それも盲目の。
だから、どうして女性になったのか、どんな見た目をしているのか、そもそもここはどこなのか、何もわからないのだ。
実家のベットとは比べ物にならないほどの、ふかふかのベットで考える。
ふと、思いつく。なんだ簡単なことじゃないか、俺はどうやらパニックになっていたようだ。
「誰かーーーーーーーーー!!」
とりあえず叫べば、誰かしら来るだろ。
てか来て!来ないと詰んじゃうから。
十秒くらいだろうか、そのくらいで、正面からなにやら焦ったような足音でこちらに向かっているのがわかる。
一応、身構えておくと、ガチャリ、と扉が開いたような音がする。
「大丈夫でしょうか、お嬢様!?」
転生、その言葉が頭によぎる。
どうやら俺はお嬢様になったようだ。
女性の声で俺をお嬢様と呼ぶ相手に、俺は首をかしげる。
「すみません、あなたは誰でしょうか?」
俺がそう聞くと彼女はひゅっと息をのみ、震えた声で、何かを耐えるようにこちらの質問に答える。
「……私は貴女様のお世話係をさせてもらっています、クラリッサと申します」
彼女、クラリッサはお嬢様とよばれる自分に近しい人物だったのだろう。
しかし、その声を聞いても、名前を聞いてもなにも頭に浮かばなかった。
ならば―――
「……すみません、私実は記憶が無くて」
―――記憶喪失で乗り切るしかない!
記憶が無い、そういった瞬間クラリッサは、すぐさま俺に駆け寄って体を触る。
腕や脚はともかく、顔面や喉といった、よくわからない部位まで、隅々触る。
目が見えないので、なんとも触られる感触がくすぐったい。
何分か経って、クラリッサはほっ、と息をつき安堵する。
しかしすぐに悲観的な声を上げる。
「あ、あの~、私の体に何か?」
「ええ、ええ、申し訳ございません。私の至らぬばかりに」
記憶喪失ムーブをかましたら、なにやらめちゃくちゃ悲しんでいて、心が痛くなった。
このままだとずっと謝り続けると思った俺は自分の名前を聞き出そうとする。
「あ、あの~、私の名前って、なんていうんですか?」
「……っ!申し訳ございません」
そうしてまた俺に対して謝罪の言葉を繰り返す。
えんえんと謝罪をするので、彼女をなだめるのに務める。
クラリッサがまともに受け答えができるまでに体感二時間くらいかかった。
「そ、それで、私の名前は……?」
「は、はい。貴女様の御名前はリア、リア=ハウンゼンです。ハウンゼン侯爵家が次女であらせられます」
俺はその言葉を聞いて頭が真っ白になった。
リア=ハウンゼン。
あるゲームに登場する、キャラクターの名前だ。
主人公の師匠キャラとして登場して、最後まで活躍した存在。
師匠キャラの名に恥じない強さで、名実ともに最強キャラだ。
どうやら俺は、その最強キャラに、転生してしまったようだ。
「お嬢様?」
クラリッサは俺のことを心配するかのように声をかける。
俺はそれに反応することができなく、茫然としていた。
名前だけであれば同姓同名の可能性がギリギリあったかもしれない。
だが、リア=ハウンゼンがもつ二つ名から連想して、俺は彼女になってしまったという確信がある。
【全盲全視】
主人公を教え、導く最強キャラ。
「ミ゜ッ」
「お、お嬢様ーー!?」
変な鳴き声を残して、俺の意識はまた、沈んでいった。
「観測できる時空を表現するならば、過去は軌跡……つまり線だ。現在は点。そして未来は面と表現できる。いくつもの要素が複雑に絡み合う未来は、何者にも予測できないほど多くの線から成る面だ」
私は告げる。
「———だから、未来を知っている人間を招致したのだ」
私はもう干渉できない。
この未来という現在が、或いは過去が、少しでもマシになることを願おう。
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