第2話 追放の裏側

気を失った俺は、つい先日の事を、夢の中で思い出していた

パーティから小僧を追い出して、俺が恨まれるようになる

…その数日前……




俺は、いつもの冒険者の酒場に、ある人物を探すために

こっそりと一人で出かけていた


(うまいこといてくれればいいんだが…)


酒場を見渡してみる

…相変わらず古臭いな、おい

壁の一部がそろそろ崩れそうだぞ?

毎回俺たちが酒盛りで散財してんだから、改修する収入は充分にあるはずなんだが…


…と、そのボロくなった壁のすぐそばに、四人の若者たちがいた

手作りの槍と皮の服、垢ぬけない顔の青年たち

田舎からやってきた、冒険者志望のやつらだという事が、すぐにわかった


(よし、いたっ!)


そう、目当てはこういう新人冒険者だ

俺は彼らにゆっくりと近づいた


「あー……そこの…たぶん見習い冒険者の諸君」

「は…はいっ?!」

俺が話しかけると、四人組の一人が飛び跳ねるように驚いた

酒場の人間から話しかけられるとは思ってなかったようだ


「あ、あなたは『ブラックロード』のリーダーさん?!」

お、田舎の若者にも知られてるんか

すごいぞ俺


「そうそう、それそれ」

「わぁ~…あ、握手してもらっていいですか?!」

「お、おう、いいぞ」

なんか怖がってる一人を除いて、三人が握手を求めてくる

全員男なのは残念だが…尊敬されるのは悪くない

あの小僧にも、こういう可愛げがあればなぁ…


「ところでな…お前たちにひとつ、頼みたいことがあるんだ」

「え…?なりたて冒険者のボクらに何か…?」

「ここじゃ何だから、ちょっと酒場の裏で…いいか?」

酒場の裏庭は、普段使わない道具を置いておく倉庫があるだけで、滅多に人が来ない

こそこそ話をする時に、ちょいちょい利用させてもらってる


「か…カツアゲじゃないですよね…」

怖がってた最後の一人が、唐突にそんなことを言った


「ちげーよ?!」

「こ、こら、ディーくん、失礼じゃないか」

「だいたい、ダンジョンでたんまり稼げる人間が

 そんなみみっちいことしねーよ!」

「あ、そ、そうですよね…すみません…」

ううん…モテるために鍛えた筋肉だが、初心者には威圧的に感じるのかもな

ともかくも、俺たちは秘密の話をするために、酒場の裏に向かった



「実はな…こういう顔のやつが、俺のギルドにいるんだが…」

『自動似顔(オートポートレート)』で作った小僧…

リフトの似顔絵を彼らに見せる


「なんか、あんまり実力者っぽくない…かわいい感じの顔の人ですね」

「こいつを、もうすぐ俺のギルドから追放する」

「つ、追放?!なんでそんな…」

穏やかじゃない話に、当然の反応をしてくる彼ら

俺だって、できればそんな事をしたくないんだが…


「明らかに俺たちと実力差があるのに、無理やり同行しようとしてくるんだ」

「…知り合いのよしみで加入させたのがまずかった

 このままだと実力以上のダンジョンで無理した挙句

 事故が起こって死んじまうだろう」

この場が、しん…と静まり返る

ダンジョンでメンバーが死ぬ…特に勇気を振り絞って挑む新人だと

あまり考えたくはないだろう

だがそのリスクは知っておかなければならないことだ


「だから俺は、心を鬼にして、嫌な奴になりきって、こいつを追放しようと思う

 もうパーティに戻ってくる気を無くすように」

「そして、こいつが追放されたそん時に

 それとなくパーティに誘ってやって欲しいんだ」

「あ…なるほど……」

ここで彼らは、自分たちがなぜ話しかけられたのかに気づく


「ちょっとした支援魔法と収納のギフトを持っている

 今のお前たちにはきっと重宝るはずだ」

「『こんなすごい人を追放するなんて

 前のパーティの人たちはわかってませんね!』

 なんておだててもらえれば、なお良しだ」

「あ、あはは…」

苦笑いをする新人くん

だが、そんな陰口ひとつで、あいつが無謀なことをしなくなるなら、安いもんだ


「もちろん、タダでとは言わねえ

 お前たちの装備一式の購入資金を俺が出そう

 依頼人たちに、初心者なりのいい仕事を、斡旋できないかってのも頼んでみる」

「しばらくやってみて、結局相性が合わなかったら

 パーティから放り出してくれてかまわない

 あくまでチャンスが貰えればいい」

無理やりパーティの編成に入れてくれと頼んでいるんだ

これぐらいはしないといけないだろう

後は、これで了解してくれるか…


「ボクたちには渡りに船の話ですね…」

「断る理由はないよな」

「うんうん」

四人のうち三人は了承してくれるようだ

残りの一人は…


「も、もちろん僕もOKなんですが…

 噂だと、もっと傍若無人で怖い人だと聞いていたので、びっくりでした」

「え、俺そんな噂されてんの?!」

何て言われてるんだ俺…


「かなり気を使ってらっしゃるんですね、メンバーのこと」

「…勝手な奴だが、目の前で死なれると目覚めが悪いんでな」

もうホント、俺の見えないところに行けよ!僧侶と一緒に!

そして勝手に幸せになれよ!

俺を巻き込んで見せつけてくるんじゃねえよ!


「わかりました!彼を見かけたらちょっと誘ってみます!」

「ああ、このとおりよろしく頼む」

俺は頭を下げて、彼らにお願いをする


「そいつと一緒に冒険したがってる幼馴染の僧侶も、追放するかもしれねえが…

 まあ、そっちはお前たちに頼まなくていいか…一人でやってける実力あるしな」

「じゃあまあ、装備買いに行くか!ベテランのお勧め装備を教えようぞ」

「は、はい!ありがとうございます!」

気持ちのいい返事を返してくれる四人

ううん、ホントにいい奴らだ

うちのパーティの奴らにも見習わせたいなあ





…これは……

人間は死ぬ間際に人生を思い出すと言うし…

俺もいよいよ死ぬって事か…?



…あの初心者パーティ、無事だろうか…

あん時の酒場では、ちょっと異様なくらい俺を叩いてたからな…

俺が嫌な奴の演技を頑張りすぎたせいなのか…?


俺を庇うような発言をして、周りから攻撃されたりするなよ…

お前らには未来があるんだからよ…

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