夕闇色のその後・完結編 自決の章 ここからはそう…もう戻れない…
交渉は決定的に決裂し………なにもかもがどうにもならなくなった、そんな時に……?
否……まゆなの感情的な爆発が、交渉を決裂させた、そんな順序だったのか……?
どちらだったのか……今となっては判らない。
判らないが、しかし……
「ここから飛び降りる!」
と……本当に窓を開けベランダへ出ようとしたまゆな。
マンションの部屋は二階……だとしても、落ち方に拠っては大怪我もすれば、致命傷の可能性だってある。
窓を開けて突進しようとするまゆなを、そのまま自決させるわけにもいかず……一歩手前で引き戻し……抱き抑えて、なんとか宥めようとした。
そのまま……泣き崩れながら抱き着いて来たまゆな……。
落ち着かせるためにも、自決させないためにも……抱きしめてあげるしかなかった。
否……その時は、さゆりさんには申し訳ないが……
本心から……
抱きしめて……あげたかったんだ。
ゆなさんからの……8年前の『お告げ』の通りに……即ち……
「もぉ……可愛くないなぁ。もっと……少しは自己チューに行動しなよ」
と、そして……
「すべて捨ててきなさい!」との条件付きとは言え、すべてを赦して下さったお命じの通りに……
さゆりさんと娘のために、その通りに選択をしてきた……可能な限りのすべてを捨ててしまった、その結果がこれだったんだ。
「れい……なんで!? 私たち……なんでこんな……こんなことになっちゃったの……?」
「ごめんよ……何もかも、僕が悪かったんだ。けどもう……もう、元には戻せないんだよ……」
そんなまゆなにとっては残酷にも、既に結論は決まっている僕に出来ることは……この時……この時だけでもいい……彼女を抱きしめ、好きなだけ泣かせてあげること……だけだったのだろう。
そのまま、僕の腕の中で泣き続けたまゆなに、何も答えられてあげられなかった僕は、それでも……
それでも、尚も冷徹な決断をしていたのだった。
このあとの、更に残酷な展開を覚悟して。
僕のそんな冷酷な決意を未だ知らなかったまゆなは……僕の腕の中でなんとか泣き止み、冷静さを取り戻したものの……話し合いは、果たして再開……できたのだろうか?
否……はっきりとした結論は得られないままに……
二人は遂に、交渉を続けることを……諦めたのだった。
諦めた二人の……否、まゆなからの最後の要求は……
勝気な瞳を潤ませながら……
「決まらなかったんだから……バイクで……送りなさい!」
送り……なさい?
僕が……女の人には逆らえないと、あの頃から知っている……前提での物言いなのか?
それはそうとしても……否、だからこそ……トランザルプで彼女の部屋まで送り届けてしまったら……次はいったい何を求められるのか? またも……彼女の『術中』とされるのではないのか?
8年前の、あの夜のエレベーターでの……そして後日の、アールグレイでの彼女の……『術中』に……二度とも、落ちてしまった僕。
そんな過去の経験を自覚出来ていたからと言って、その時の僕に……果たしてその『術中』を、今回こそは拒絶できるのか?
否……さゆりさんと娘との将来のためにも……拒絶しなければならないんだ。
だからこそ……その要求に応えないことこそが、今回の最終結論だと……
まゆなには、それをなるべく優しく説明したつもりだった。
だが再度、彼女からの答えは……
「そう思ってるんなら……送りなさい……」
もう……ダメか……。
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