夕闇色のその後・完結編 吐露の章 積もる言の葉さえ…
部屋には着いたが……場が変わると、すぐには話の続きを始められない。
「思ったより広いのね」
「ああ。六畳間じゃなくて、八畳あるんだ。あのボロアパートよりは、マシだろ? アハ!」
「・・・・・・」
その時……すぐに返事をせず、どこか俯いてしまったまゆなだった。
「まゆな……どうしたの?」
「だって……立派なマンションの部屋だと、あのお部屋よりマシってことになるの?」
「!?」
8年前のあの頃……まゆなのためだと思い込んで借りたあの池袋のアパートのことを、まゆなはまだ……?
いや……この時に「あのボロアパート」のことを言い出してしまったのは、僕の方だったが……どうして……何故そんなことを、さり気なくでも言ってしまったのかを、僕は後悔していた。
そして自分から言い出したにもかかわらず、身勝手にも僕は……
「まゆな……もういいだろう。あの頃のことは……もう……」
「そうだけどさ……部屋を用意してくれたあの時は本当に……嬉しかった」
「えと……それもさ……あの頃の勘違いしていた僕の本心とか、ホントのことはまゆなも知っていたんだから……」
「うん。それはそうだったけど……でも、あの時……あの日だったんだよ……」
「あの日……?」
「うん……れいがあのお部屋を初めて見せてくれて……私、嬉しくてさ……フフッ……れいを押し倒して……襲っちゃったよね! アハハ!」
「!!」
ま……まさか……?
「まゆな……それって、あの時に……その……?」
「うん……そう。でもいいの……。たださぁ……」
「ただ……?」
「私のせいで、れいにも……大変な思い、させちゃったなぁって……思い出してさ…」
その時のまゆなの台詞が……本当に僕に対する当時の件の懺悔なのか、それとも……この夜に続けることになった『交渉』のための『術中モード』だったのか……?
いずれにしても、その時…
その1994年当時までも続いていた……続くこととなってしまった『夕闇』が……『いつ、どこで始まってしまったのか』を初めて、まゆなから本人から直接明かされた僕だったが……
それでも……それでもあの当時のゆなさんからのアドバイス通り……僕の『自己チュー』な決断は、翻りはしなかった。
“さゆりさん”という選択肢が……もう既に、何年間にも渡り……決まっていたのだから。
ごめんよまゆな。君が、あの頃のことへ触れるほどに……僕の罪悪感は甦り、増殖してしまうんだ。だから……もう、一旦やめにしよう。
「まゆな、ありがとう。でも……まゆなのせいじゃないんだから……『過去』のことよりも『今後』の話をしようじゃないか……」
「あ……うん。ごめんね……」
「コーヒーでいい?」
「うん……ありがとう」
そんな風に、なんとか話は始まったが……それまでと似たような流れで、ラチがあかない。
しかし、前回は8年ぶりの再会のせいか遠慮がちで、まゆなに主導権を握られてしまった僕も……自宅へ戻ってからは、しっかり本音を伝えらえた部分はあった。
それでも……否、それ故だったのか……結論は得られず……
「だからって……そんな顔すんなよ。美人が台無しだよ」
「だって……」
変わらずラチが明かない流れの中で、ある意味決定的な瞬間が訪れたのは……
まゆなが感情的に爆発した一幕だった。
「じゃあもう私! ここから飛び降りる!」
もうこの時点で……なにもかもが、終わりだったのだろう。
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