夕闇色のその後・完結編 無常の章 貴女が生きているならば…
「可愛くないなぁ……もっと……少しは自己チューに行動しなよ」
それが……ゆなさんから8年前に賜ったアドバイス。
「まゆな……ホントにごめん。あの頃みたいな後悔だけはしたくなくて……自己中な行動だってことも、判ってた」
「それは私だってさ……もうオトナなんだし、あの頃みたいなことをさ、その……繰り返すつもりなんてないけどさ……」
続いた沈黙が、まゆなと僕と……そしてゆなさんとの過去を甦らせる。
まゆなは……8年前の、あのエレベーターでの件のようなことを繰り返すつもりは無いと言う。
まゆな……ありがとう。
その点は、本当に……まゆなに感謝と懺悔だった。
それでも僕は……8年前にゆなさんから言われた……
「可愛くないなぁ……もっと……少しは自己チューに行動しなよ」
そんなアドバイスを冷酷にも……既にして、実行してしまっていたんだ。
ゆなさんへも……本当に感謝しかなかった。
貴女のあの時の、あのひと言のお蔭で……僕は今の幸せへと辿り着けたのです。
でも、それって……必ず『犠牲』が伴うのですね。
あの時……その『犠牲』を、まゆなではなく貴女にしてしまったのは、僕でした。
どうして……どうしてそんな選択を……その『犠牲』を、なぜ貴女の方にしてしまったのか……。
「自分が赦せなかった」なんて、卑怯な言い訳をしてしまった幼さを……どうか……どうか、赦して下さい。
ゆなさん……あの頃の僕は、貴女を本当に……本当に愛していました。
最後に事務所でお逢いしたあの日……ミニスカートの真っ赤なスーツ姿が眩しかった貴女は……
アールグレイの時と同じく、僕の度重なる愚行の何もかもを、再度赦して下さっていたのを……僕は判っていました。
その時点での僕の本当の深層、即ち……僕が本当に想っていたのは、まゆなではなく……諦めきれず、深く愛していたのは貴女だけだったのだと……それを気付かせて下さったのも、やはり貴女だけでした。
それでも……それでも、素直に貴女へと戻れなかった僕の愚か極まりない選択は、後に貴女を……貴女を遂に、本当に『幻』にしてしまった……二度と逢えなくしてしまった。
それは僕の人生の中で一生……一生の『後悔』として、残り続けることでしょう。
否……
今でも……残り続けています。
今のパートナーであるさゆりさんには、本当に申し訳ない程に……
心に、否……『命』に……
『惨い』程に……
深く……刻まれ続けて……いるのです……。
ゆなさん……赦して……
どうか……赦して……下さい……。
そんな顛末を知らないはずのまゆなと、避けられない事情にて再会し……更に日を改めた、中野駅北口のお店での再度の話し合いは……
交渉の進展の有無も判らないような状態で時間切れ……お店の閉店時間が迫っていた。
そこでまゆなからは……
「じゃあわかった。私、逃げないよ。今かられいンち連れてって。それなら時間も関係なく話せるわね! それでいいでしょ?」
時間が押したのは僕が事故を起こしたから。
事故を起こしたのも、この夜のことについて、ボケっと考え事をしていたから……。
全部……僕が悪いんだ。
いや、そんな昨日今日の次元ではなく……そもそも8年前、まゆなを傷付けてしまったのは、誰だったんだ……?
「いいよ。それで、ちゃんと話し合えるのなら……」
その時の僕は……あの頃ゆなさんから散々叱られていた、もう一つの件を思い出していた。
即ち……
「だから、いつも言ってるでしょう? そんな言い方やめなさいって。キミがいくら自分のせいにしたところで、問題は解決しないのよ!」
ゆなさん……あの頃、貴女が直そうとして下さっていた僕の悪い癖は……未だに続いているようです。
本当にごめんなさい。そして……ありがとう。
貴女からの、あの頃の忠告を……僕は今夜こそ実行するから……
見守っていて……下さいね。
ゆなさん……。
タクシーに揺られながら、そんなことを思い浮かべていたが……その追憶のお蔭だろうか、当時のゆなさんからのアドバイスを、本当に実践に移せた夜だった。
但しその前に……
僕も知らされていなかった事実に関する……
まゆなからの、吐露があったのだった。
即ち……今回、再会することとなった……否、再会しなければならなくなった『避けられない事情』が……
いつ、どこで始まってしまったのかに関しての……
具体的な……『吐露』が……。
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