夕闇色のその後・完結編 事故の章 今の二人 救えるものは

 まゆなと8年ぶりに再会した事情……そして、目的に於ける……

 残してしまった案件を話し合う予定日が決まり……


 「来週……必ずよ」と、僕の腕を掴むまゆなの部屋から、その夜はなんとか脱出できた。


 そうした背景となる事情の『全般』は……前述の如く、明かせない。


 まゆなについても……そして、ゆなさんに関しても。






 次の日曜日、北海道は小樽にて、さゆりさんは無事に出産。

 2566gの女の子だった。


 『お断り』が毎章に渡り重複して申し訳ないが……さゆりさんは、僕がまゆなと会ったことを知っている。

 その後、再度話し合うためにまた会う予定になっていることも……その背景も事情も、そして結果も何もかもを。




 そんな、まゆなと再度会う約束の水曜日。


 その日の僕の業務は、オフィスで使うコピー用紙の搬送担当。

 都県境辺りにある倉庫にプールされているコピー用紙を、青山のオフィスで使う分、2tトラックに満載で、首都高経由で運んで来る。

 コピー用紙を2tトラックに満載すると、相当な重量。

 ただ、それも初めての任務でもなく、それまでも何度も担当していた。


 だがその日、僕の心には間違いなく……『夕闇色の魔』が入り込んでいたのだった。


 いつもなら手前で減速して入るはずの、北池袋インターチェンジ近くの『魔のカーブ』へ……時速80kmのまま、入ってしまった。


 カーブの途中で我に返り、過ちに気付いた時には手遅れ……尋常ではないGを感じハンドルを切ったが、満載のコピー用紙の揺さ振りには逆らえず……


 トラックは右へ横転した。


 不幸中の幸いだったのは……

 高速の外へ投げ出されず、曲がるには曲がり切った点。

 カーブの出口からが直線だった点。

 その直線を、綺麗に真っ直ぐ滑って行き、壁には掠りもしなかった点。

 転倒後、制御を失ったトラックから追突される位置に、車両がいなかった点。

 見通しの悪いカーブの出口にも関わらず、後続車両からは追突されなかった点。


 なにより……右へ転倒した瞬間、運転席側の僕の顔はサイドウィンドウへピッタリ張り付いていた。

 もしも……もしも窓を全開にしていたら、そのまま路面との摩擦に持って行かれ、首がもげていたはずだったと……事故処理に駆けつけた警察官の方に指摘されたが……とにかく不幸中の幸いが重なり、大惨事には至らなかった。


 いつもの減速をしなかったあの瞬間……僕は確かに、その夜のことを……まゆなとの再交渉のことを考え込んでいたのだろう。


 当然、事故処理に時間がかかり、社に戻ってからも叱られ……帰宅したのは20時を過ぎていた。




 先ずは小樽へ報告し、さゆりさんからは叱られた。その夜のまゆなとの再交渉も、事故で延期を考えていることも伝えた。


 それからまゆなに連絡……時間が遅すぎるから、延期しようと伝えるために。


「ごめん。首都高で事故を起こして……トラックを横転させて、こんなに遅くなって……」


 その続きを遮るように……


「バカ! なにしてんの! 大丈夫⁉ 怪我は⁉」


 こっちにも……叱られるのか……。


「いや、幸いまったく無い。それで今夜は遅くなったから、その……また今度に……」

「よかったぁ、無事で。本当に怪我、無いの?」


 延期についてはスルーなのか……。


 ひと通り、経緯を説明すると……


「それって、大事故じゃない! 今度とか言って、ホントは大怪我なんじゃないの⁉」

「いや、ホントに大丈夫」

「じゃ、今から出るから! 中野には、30分後くらいね!」

「あ……遅いけど……いいの?」

「ホントに無事かどうか、顔見るまで信じないもん!」

「わかった……向かうよ」


 強引な……否、失礼……真剣な彼女には……相変わらず逆らえない僕だった。


 この……時点では……。

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