第11話 心優しき暗殺者と劣等の王子
ラスさんは私の方を向いて口を開く。
「次にルカ。君は王宮兵としてかなりの訓練を積んできたと見える。魔力操作による素早い動きに的確な状況判断。そして魔双剣から放たれる強力な斬撃。どれも目を見張る物がある」
「でも……仕留めきれませんでした。結局テオのフォローがあって、なんとかなりました」
私は一気に落ち込んでいく。
「俺にはわざと急所をそらしていたように見えたんだけど、気のせいかな?」
「っ!」
そう言われて先輩方との模擬戦を振り返ってみると、無意識に軌道をズラしてしまったような気がしてくる。
「そうかも……しれません……」
「君は優しいんだね。この訓練場は特別な結界が張ってあって、攻撃を食らっても傷を負わない設計になってるって、最初に説明したよね」
「はい……」
「だから、たとえ相手が同じ騎士団の仲間でも、この訓練場の中では遠慮しなくていいんだよ」
「はい、すみません……」
「マジか、ルカ、あれで手加減してたってことか」
と、ブラッド。
「ブラッドがあんな一生懸命守ってくれてたのに、ごめんね……」
私は罪悪感で泣きそうになってくる。そんな私の表情を見て、ブラッドはあわあわしていた。
「ちげーって、俺は本当はもっと強いんだなって思ってすげーって思ったの!」
「ブラッド……ありがとう」
ラスさんは最後にテオへ語りかける。
「テオバルトは、すごい魔力と正確な魔力操作のセンスがある」
「そう、でしょうか……」
テオは困惑気味にそう返した。
「自分では、そう思ってないの?」
と、ラスさん。
「俺の国では、魔道士は力がなく落ちぶれた者がなるものですので……父上や兄たちにはいつも非力って馬鹿にされていました」
「はぁ~、なるほどね、そういうことかぁ。君のお父様、つまりシュタイン国王陛下からは、その腐った根性を叩き直してくれって言われてんだよ。俺からしたらどこが腐ってるんだろうって思ってた訳よ」
「文化の違い……」
私はそうボソッと呟く。
「そう、シュタイン王国は魔道よりも武力に力を入れている国なんだね。確かにそう言われてみれば君のお父様は筋肉隆々だわ」
と、ラスさん。
「俺は、てっきり国を追放されたものだと思っていましたが……」
「いやいや、君に強くなってほしくてウチに入れてくれたみたいよ」
「そうですか。僕は……魔道士を辞めるべきなんでしょうか」
「オーウェンはそう思ってはないみたいだけどね」
「団長が……?」
テオは驚いた表情を見せる。
「この最強の壁、ブラッド君を採用した時点で、残り2枠は必然的に後衛から中衛となる。正直誰を軸に考えたかは俺には分からないけど、君たちはそのスタイルを貫いていくのがいいと、オーウェンは考えたみたいだよ」
「テオは、魔法嫌い?」
私はそう尋ねてみる。
「いえ、俺は……魔法は好きです。でも、ダメな物だと思っていたので、その気持ちを抑えてきました」
「なら、もっと魔法を伸ばしていこうぜ!」
と、ブラッド。私も彼に続く。
「そうだよ。テオの中にはものすごい量の魔力を感じる。それをもっと極めて、シュタイン国王に魔法のすごさを見せつけよう」
「2人とも……はい、ありがとうございます! 俺、頑張ってみます」
テオはそう言ってグッとやる気を見せた。
「うんうん、良いパーティだぁ……」
ラスさんはそう言って、しんみりしながら私たちのやり取りを見守っていた。
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隣国にスパイとして乗り込み故郷の敵である騎士団長様へ復讐をしようとしたのにうっかり恋をしてしまいました るあか @picho
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