第9話 あれ、バレてない
どのくらい星を眺めていただろうか。もう大浴場に戻る勇気はないので、そろそろ部屋に戻ってシャワーを浴びなきゃ。
そう思い自分の部屋の前に行くと、さっき投げつけたバスタオルとなぜかコーヒー牛乳の入った袋がドアノブにかかっており、その袋の中にはメモが入っていた。
『さっきは驚かせたようですまなかった。今はもう誰も入っていないから、いい湯だから良かったら入ってくれ。もし必要であれば、脱衣所の入口での見張りも引き受けよう、気軽に言ってくれ。追伸 この国では大きな風呂に入ったあとはコーヒー牛乳を飲むのが習慣になっている。美味いので良かったら飲んでみてくれ。 オーウェン・ヴァレンタイン』
「あれ、バレてない……」
ってか……。
「良い人すぎでは……?」
あれ? 私、めちゃくちゃ失礼でしかも変な態度取ったよね?
オーウェン団長は女嫌いだから、さすがに女だってバレたらこんなメモは挟まないよね……。
しかも性別詐称だし……。
え? 本当にこの人が私の故郷を滅ぼしたの?
私、この人に
頭の中がぐるぐると回っていたけど、私は彼の善意を無駄にすることができず、部屋に入るのをやめて大浴場へと向かった。
すると、脱衣所の前の椅子でオーウェン団長がコーヒー牛乳を飲んでいた。
「あっ……オーウェン団長……」
「ルカ、来たか。さっきは何というか変なものを見せてすまなかった」
彼はなぜか少し顔を赤らめて申し訳なさそうに言った。
「い、いえ! 僕の方こそ、その……誰かと一緒に風呂に入る習慣なんてなかったので……その、変な態度取ってすみませんでした……」
「メドナ王国はそういう風習なんだな。俺がここで見張っているから、ゆっくりと入ってくるといい。もちろん脱衣所にも入らないから、安心してくれ」
「そ、そんな団長にそんなことさせる訳には……!」
「いや、せっかくこの騎士団に入ってもらった初日を嫌な思いのまま終わってほしくないんだ。これ以上お前に嫌な思いをさせないためにも、俺はここで見張っているよ」
「オーウェン団長……すみません、ありがとうございます。あの……行ってきます」
「あぁ、ゆっくり浸かるといい」
⸺⸺
私はメドナ王国にはない、大浴場というものを存分に堪能した。
とても良いお湯で、さっきのハプニングなんかどうでもよくなるくらい心地が良かった。
通路に出るとオーウェン団長が座って待っていて、私は彼の隣でコーヒー牛乳を一気飲みした。
「んー、美味しい!」
「だろ? そうだろう? 食堂でもらえるから、好きなときにもらいに行くといい」
彼はそう言って嬉しそうに微笑んでいた。
「はい……」
ドキドキと高鳴る私の心臓。
そして、私はあろうことかこんなお願いをする。
「あの……また入りたくなったら見張り、お願いしてもいいですか……? 僕の国はこんな大きいお風呂なかったので、すごく、新鮮で……」
「もちろんだ。またいつでも声をかけてくれ」
「ありがとうございます!」
その後、オーウェン団長から銭湯や温泉の話を聞いて、自分の部屋へと戻った。
ベッドに突っ伏す私。
「何、
⸺⸺翌日。
ラスさんに「そういえば昨日風呂でオーウェンと鉢合わせなかった~?」と軽く聞かれ、ちょっとイラッときたのは内緒だ。
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