第4話 経過報告

 翌朝。


「ルカちゃん、ルカちゃん!」


⸺⸺ドンドンッ。


「うーん……」


 宿屋の女将おかみさんの激しく戸を叩く音で目が覚める。


「女将さん……? どうしたの?」


 私は目を擦りながら女将さんを部屋へと招き入れる。


 すると、女将さんは1通の手紙を渡してくれた。


「あ、入団通知書……合格だ」


「あんた、男のフリして入団試験を受けたんだね」


 や、やばっ。女将さんにバレた……って、なんでそんな嬉しそうなの?


「……はい。騎士団に、言いますか……?」

 私が落ち込みながらそう尋ねると、女将さんは大きな声でわっはっはと笑った。


「言う訳ないでしょこんな面白そうなこと! こんな若い女の子が男のフリまでして白狼騎士団に入りたい理由なんて……ただ1つ!」


 ま、まさか暗殺の計画が……!


「それはズバリ“恋”だね!」


「へっ?」

 思ってもいない女将さんの回答に思わず声が上ずる。


「で、誰なんだい、お目当ては? 騎士団長様かい? それとも副騎士団長様かい? あの団は若くてイケメンが多いからね~」

 女将さんはそう言って肘で私をぐりぐり突っついてくる。


「そ、それは……」


 本当は否定したい。でも、そうやって女将さんが勘違いしてくれてるのは好都合だ。それなら……。


「は、恥ずかしいから秘密です……」

 そう言って私はモジモジしてみる。


「いゃぁーっ! 可愛いいぃぃぃっ!」

「うわぁ、女将さんっ」


 私は大興奮の女将さんに抱きつかれて身動きが取れなくなる。


「もう、今は秘密でもいいからいつかこの女将に教えにきておくれよ?」

 女将さんは私から離れると、肩を強めにポンポンと叩いてきた。


「は、はい……そのうち……」



 そして女将さんから、私はこのままでも可愛い男の子に見えるから、変に男ぶったりしなくてもいいというアドバイスをもらった。


 一人称だけ“僕”のままで、あとは私のままでいいんだよ、と言われ、私はちょっと気が楽になった。


⸺⸺


 色々とお世話になった女将さんにお礼を言って、私は報告のため一旦故郷に帰ることにした。



⸺⸺メドナ城⸺⸺



 私は女王陛下へ騎士団の入団試験に合格したことを話す。


「ルカ、よく頑張りました。まずは一安心ですね」

「はい、ありがとうございます」


「それで、面接では何か我が国について尋ねられましたか?」

 そう言われて私は誰の面接なのか分からなかった面接を思い出す。


「いえ、特に何も聞かれませんでした」


「そうですか。相手もこちらの出方を伺っているのかもしれませんね。くれぐれもスパイだと悟られぬよう、上手くやるのですよ」


「はっ、承知いたしました!」


「ところでルカ」

「はい」


「あなたのその髪型は一体……」


「へっ? あ、こ、これは……気合を入れるために、少々イメチェンを……」

 私は適当に誤魔化す。


「そうでしたか……。あなた1人にこんな重荷を背負わせてしまってごめんなさいね」


「いえ、そんな、とんでもないです」


「ですが、帝国に侵略のきざしがある以上、看過するわけにはいきません。なんとしても証拠を掴んでくるのです。12年前のような悲劇が起こらないためにも……」


「はっ! おまかせ下さい!」


 そうよ。12年前だって、情報が不足していたせいで、気付いたら森は火の海だった。


 あの時だって、白狼騎士団が何か企んでいるとかいう情報を掴みさえできれば、未然に防げたかもしれない。


 あのときは何もできなかったけど、今度こそ私は、祖国を守ってみせるんだ!



 女王陛下のお言葉でかつを入れてもらった私は、気合を入れ直して玉座の間を後にした。



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