第3話 誰の面接?

「ふっ、そう見つめられても困るのだがな……」

 ヴァレンタイン将軍はそう言って吹き出した。


 うわぁ私また見ちゃってた!


「すすすすみませんっ!」

「ではまずは俺の面接からいこうか」

「ぇえっ!?」


「順番が最後になってしまったお詫びだ。待たせてすまなかった。2、3くらいなら俺のことを話そう。そうでもしないと、集中できなさそうだしな」


「す、すみません、ありがとうございます……では……お言葉に甘えて……」


 これはチャンスよ私。12年前に魔女の森に来たのか聞くのよ!


「……おいくつですか?」

 私がそう尋ねると、彼はまたもや吹き出した。

「……30歳だ」


 やっぱり? それくらいに見えたんだよね……。


 ってことは12年前は……18歳。

 いや、若すぎない!? 今の私と同じってことでしょ?


「あの……一体いつ騎士団長様に……」

「18歳の時だ」

「わ、若いですね……」


「まぁ……一応史上最年少とかって言われていたらしいが……」

 彼はそう言って困ったように頭をかいている。


 謙虚……とも思ったけど、同時にある考えがよぎる。


 やっぱりあの魔女の森に侵攻してきたときも……騎士団長だったんだ。


「あの……ご結婚とかは……」

 クスクス笑うヴァレンタイン将軍。

「していない。俺は生涯結婚するつもりはないぞ」


 わ……女嫌いなのも本当だったんだ。やっぱ男装してきて良かった。



 って、そんなことばかり聞いてどうするのよ!

 かたきとしての決定的な証拠を掴むのよ。


 ほら……聞きなさい、私……。


「あの……12……」


 その時。


⸺⸺コンコン。


「オーウェン団長。そろそろお時間です」


 そう、扉の向こうから声が聞こえてきた。


 それに対しヴァレンタイン将軍は「分かった」と答える。


「えええっ!?」


 ど、どうしよう私の話全くしてなくない!?


 一体誰の面接だったの!?


「すまない。どうやら時間のようだ。続きはまた後日としよう」


「……後日?」


「あぁ、後日、我が団に入団してからまた話そう。その時に、お前のことも教えてくれたら嬉しい」


 え、それって……。


「わた……あわわ、僕、合格ってことですか?」


「これも黙っていて悪かったが、最初から採用するつもりでいた。これからよろしく頼むぞ、ルカ」


 彼はそう言って優しく微笑んだ。



⸺⸺キュンッ。



 イケボに名前呼ばれた……。って、何がキュンッよ私のバカ!


「あ、あの、よろしくお願いします!」

 私はガバッと深く一礼する。



 こうして私はヴァレンタイン将軍に騎士団総本部の入り口まで送ってもらい、宿屋へと帰った。


 適当に宿屋の手続きを済ませ、昨日と同じ部屋へ入り、ベッドにダイブする。


「はぁ……まだ始まってもないのにもう疲れた……」


 私の故郷の敵は、イケボの爽やかイケメン。

 私が勝手に想像していたキモい顔のハゲたおっさんとはあまりにもかけ離れすぎていた。


 それに……対面したからこそわかる。


 彼はめちゃくちゃ強い。


 私……暗殺に行っても返り討ちに合いそうなんだけど……。


「はぁ……」


 その日はずっと宿屋に閉じこもって、この先の不安な未来を想像してネガティブスパイラルにおちいった。



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