第2詩 【掌(てのひら)へ】


風向きを知るために


少女の掌(てのひら)から落とされた


一握りの草は 風に乗って


若馬のように駆けて 飛んでいった



草原の緑を踏みしめて


少女は春一番の風の中にいる



何処までも拡がる草原が


馬のたてがみのように雄々しく


靡(なび)きに靡(なび)いている



少女の掌(てのひら)から解き放たれたものは


もう二度と 戻ってきては くれまい


それが寂しくとも 旅立ちだと少女は思う



  (あたしの旅立ちは

  風とともに きっと……)



そんな気がして 少女は


風に向かって通せんぼするように


大きく体をひろげてみせた



 (春は きっと あたしを強くする)



少女の掌(てのひら)から旅立った


はるかかなたの 草の葉が


大地に舞い降りる頃には


少女はきっと 何かを握りしめ 


ふたたび 春の嵐の中を歩いていることだろう



若馬は駆けに駆け


いま


少女は春一番の中にいる



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