第9話
目が覚めた。いつもと違う天井に脳がまだ困惑している。数秒後にはしっかりと認識し始めた。昨日起きたことも、自分がしたことも。
そして俺の横に寝ている女の子が田中先輩であるということもだ。
『待て待て待て……、何してんだよぉぉおお、俺!?』
一夜明けて、酔いが完全に冷めてしまった俺は昨日の自分がしたことの不味さを改めて理解した。
会社の先輩と一夜を共にするというのももちろん、気まずくなるが、それも相手は教育係兼鬼上司ときた。
それに昨日の俺と違って、完全にやる気が抜け落ちているために絶対に啓人だと気づかれてしまうことだろう。
「まずはココから逃げなくては……」
そう思った俺は愛の巣からの逃走を試みることにした。しかし、このまま置いていかれた先輩のことを思うと心が傷んだ。
それに正人は先輩と仲良く(意味深)なることができたんだ。この関係を失ってしまうということはもったいない。
しかし、バレたら確実に会社で気まずくなるし、先輩の事だ。過ちを犯してしまった私はここには入れない、などと言って退社してしまうかもしれないのだ。
「先輩、俺。どうしたらいいですかね?」
規則よく寝息をたてている先輩に問いかけてみるが返事は返ってこない。酔いが覚めた今でも先輩は可愛い。
「正人じゃなくて啓人を好きだったらなー。それにあの時、正人じゃなくて啓人だって言っておけば変わってたんですかー?」
ねぇ、先輩?俺は無駄な独り言を呟いた。この声が夢の中の先輩を悩ませてればいいなと思う。
しかし、先輩は嬉しそうな顔をうかべた。届いていないらしい。今の俺はどうしようかと変顔になってること間違いなしなのに。
「逃げよう、いやこの瞬間だけ逃げよう」
今会ってしまうと確実にバレてしまう。もう一度、体制を整えてから向かおう。それにそろそろ会社にも行かなければならない。
1度家に帰るとすると、そのくらいの時間か。先輩には申し訳ないがギリギリ会社に間に合うくらいに起きてもらおう。
俺は目覚ましをその時間にセットすると、外に出た。もちろん、会計は済ませている。
「足掻きはしたけど、まあ先輩の反応次第にはなるよなぁ……」
そう。俺は粘り強い男なのだ。1度掴んだチャンスは絶対に離したくはない。俺は目覚ましの下に今はもう使っていないメールアドレスを書き残しておいた。
『また会いたいです』
とだけ残しておいた。俺って最低だよなぁ……。そんなことを思いながら自分の家に向かった。
◆◆
星が欲しい。
鬼上司が合コンにいたので他人のふりをしていたら気づいたらワンナイトしていた件 大学生 @hirototo
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