第7話
もし、もしだ。仮に先輩の初恋の人が俺だったとしよう。それで俺はこのまま正人として先輩のことを抱いていいのだろうか?
そんな悩みの前に病み期に入って閉まっている先輩を救出する方が先か。
「望さん、俺は引いてませんよ。なんだか、少し可愛い理由で俺に興味持ってくれたんだなって思っただけです」
「か、可愛いって……バカにしてるでしょ」
「バカにはしてません。いたって真剣ですよ……ふははッ」
「あ!?やっぱりバカにしてる!」
思わず、笑ってしまった。やはり、おかしかったのだ。いつもは冷酷なオーラを放っている先輩が乙女な理由で俺(正人)に近づいてきてくれたことを。
俺はくるまってしまった先輩を布団から引きずり出す。布団から出された先輩は顔を両手で隠していた。しかし、耳は真っ赤になっており、目は少しだけ涙目になっている。
「お姉さんは恥ずかしくて死にそうなんだよぉ、見ないでくれたまへ」
「嫌です。見ます」
「正人くんは鬼畜なのか!」
「だって……可愛いですし、」
「だから、軽々しくかわいぃ……とか言うな!」
先輩は俺の事をドカドカ殴った。痛くはなかったし、少し心を開いてくれた気がして嬉しかった。
そうだよ、もし初恋の人が俺じゃなかったとしても初恋の人に俺は似ているのだ。複雑な気持ちではあるが、この立場を利用させてもらおう。
そんなクズ男みたいなことするなって?俺以外のクズ男に先輩の渡すのは嫌なんだよ。俺ならいいんだ。恋愛なんて我儘くらいがちょうどいいんだ。自己中になれないやつは生き残れない。
「俺のことさ、初恋の人だと思って抱かれてよ」
俺がそういうと先輩は少しだけ複雑な表情を浮かべた。
「……そんなこと、正人くんに失礼だ。違う人の行為を向けるなんてダメだ」
「望さんは優しいんですね。こんな俺にも気を使ってくれるなんて。でも大丈夫です。俺は美人な人をだけで幸せなんで」
「ふふふ。清々しいくらいにクズな人ね、正人くんは。でも、そのくらいの方が気に病まなくて済みそう」
「そうでしょう?」
俺はこれでいいんだ。精一杯、クズ男を演じよう。その方が先輩もいいし、俺にも都合がいい。
しかし、俺のそんな考えはいとも簡単に崩されてしまう。それは先輩が悪いと思う。こんなことを言うのだから。
「でも私、嬉しかったの。正人くんがめんどくさい私の面倒を見てやるって言ってくれたこと」
「あはは、そんなこと……」
あれは正人から発された言葉ではなかった。あれは俺自身が思っていたことだった。そして、先輩は俺の手を取った。
「だからあなたのことを思って抱かれることにするわ。私は正人くんに抱かれたい」
「初恋の人じゃなくていいんですか」
「そう。けど、今だけ。この瞬間だけよ」
そう言って先輩は笑った。その笑顔は今日のどの笑顔より美しく、あっという間に俺の理性を飛ばした。
◆◆
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