第6話
俺たちは鍵を受け取るとそのまま部屋へと直行した。俺はいつでもこい!の状態ではあったが、田中先輩がその状態にはなかったために少しだけ話してからにすることになった。
「正人くん!ビールが売ってるよ!」
「そうですね……」
建物内に入ってからというもの、先輩はテンションが高い。緊張がなくなって、子供のようになっている。録画して素面の先輩に見せてあげたいがそれは正人が俺であると言っているようなものである。
「正人くんもいる?」
そう言って彼女は俺に缶ビールを差し出した。もう片方の手では既に空いた缶ビールが持たれていた。
「付き合わさせてください」
「えへへー、そうでなくっちゃね」
そう言って彼女はベッドに飛び乗った。そして自分の前のスペースを二三回、手で叩いた。ここに来いと言うことだろうか?
俺はその指示通り、その場所に座る。この解釈であっていたようだった。先輩はにっこりと笑って話し始めた。
「こういう悪いことしてみたかったの……」
「悪いことですか?」
「そう、悪いことだよ」
彼女のいっている悪いことというのは初対面の男と行為に及ぼうとしていることのことだろうか、それとも夜更かしをしているということかもしれない。先輩ならあり得ると思ってしまう自分が怖い。後者なら幼稚すぎる。
「私ね、小さい頃から真面目な女だったの。男の子と関わることなんてなかったし、話したとしても必要最低限だけ。でも、それが嫌だなんて思ったことはなかったわ」
「意外です。せん……望さんは綺麗ですし、もっと遊んでいらっしゃるのかと」
これはさすがに嘘だ。でも処女とは思ってもいなかった。
「……こんなこと、話していいのか迷うのだけど……」
「なんですか?この際ですし、なんでも聞いてあげますよ」
「絶対にバカにしない?」
「しません」
俺がそう言い張ると、先輩は頬を少しだけ赤く染めた。それはお酒のせいというより、羞恥によるものだと思う。
「……あなたが私の好きな人に似てたの」
「 」
彼女は顔が暑くなったのか、手でパタパタと自分の顔を扇いでいる。多分、俺も同じような顔の赤さになっているかもしれない。
「私の好きな人に……」
「き、聞こえてます」
な、何、動揺してるんだよ。俺が俺に似ているからって、先輩の好きな人が俺って限らないだろう?自意識過剰にも程がある。
「どう?……引いた?」
「い、いや。そんなことは」
「え!?ひいてるよね?ひいてるよね!」
「いや、だから!」
俺が否定しようとしたが、先輩は軽くベッドで跳ねてから近くにあった布団にくるまって芋虫のようになってしまった。
そして、羞恥からだろうか。うねるようにベッドを右往左往していた。
「終わった……。なんでこんなこと言ったんだろ、わたし。これじゃ、拗らせあいたた女だわ。も、もう死のう。そうしよう」
そう言って芋虫のうねりは止まった。しかし、啓人の方の心臓の鼓動は止まりそうになかった。
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