第5話

俺が進んでいく先を理解している先輩は先ほどのような余裕はなくなっていた。立ち止まるということはしていなかったが、歩くスピードは駄々をこねる子供のようだった。


「さっきは悪かったよ。童貞とか言ってさ。そうだ。飲みなおさない?お姉さん、もうすこしお酒、飲みたいよー」

「ああ、今から行くところでも飲めるんで、それか缶ビールでも持ち込みますか?」


俺がそういうと先輩は首を横に振った。お酒が飲みたかったというわけではないらしい。先輩は何か言いたそうにしていたが、俺はかまわず歩いた。


そして目的地に到着した。少し派手な装飾の施された場所。まあ、言葉にはしないがあそこだ。


「おねえさん、そういやお金なかったから払えないよ。だからね?かえろぉよ?」

「いや、俺が払います」

「じゃあ、おねえさんは疲れてるし、酔ってるから動けないし、また日を改めて……」

「全然かまいません。俺が頑張るんで」

「お姉さんは大丈夫じゃないのっ!?」


そういって先輩は下を向いてしまった。俺は膝をまげて先輩の顔を覗き込んだ。そして先輩は涙ながらに小さい声で言った。


「わ、わたし経験ないの……」

「へ、へ?」

「だ・か・ら私は……しょ、処女なのぉお……」


先輩は俺の手をギュッと握った。先輩は不安だったのかもしれない。散々、俺にあれだけのことを言っておいて自分が処女だったということを言うのが。


なんて失礼なことをしていたんだ。俺は最低だ。先輩の気持ちも考えずにこんなところまで連れてきて。なんてクズなんだ。俺なんて……。俺なんて。先輩の気持ちを考えたら、こんなこと絶対にしてはいけない。


駄目だ、啓人。それは違う。言ってはいけない。それは先輩、俺にとって『呪い』になる。


「俺がもらってやるから、安心して俺に身を任せて」


しまった。やってしまった。後悔するのは分かっている。しかし、俺は止められなかった。性欲とこの酔いを。


「ほんとに?私、うまくできないけど頑張るよ」

「うん。」


そう返事した俺に先輩は体重を預けた。そして俺は紳士な気持ちで建物へとはいっていった。この時の俺は性欲の一つもないような顔をしていたかもしれない。しかし、それは全く逆である。煮えたぎるような性欲の周りに0.01mmの理性が膜を張っていただけである。


まあ、その膜はやぶれるだろう。まあ、冷静なお前らにはわかっているだろう?この意味がな。


◆◆

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