第4話

「ほらあ~。すぐに答えられないでしょ?こんな年のいった女なんて厄介者でしかないのよ」


そんなことを言いながら、手前にあった誰のかもわからないレモン酎ハイを飲み干した。態度は本当に厄介なおばさんみたいになっている。普段の先輩とは考えられない。


「誰か私を幸せにしてよおおお~」


そういって、先輩は机に突っ伏してしまった。そして俺のほうをみて、にっこりと笑った。その笑顔が何を意味していたのかも分からないが、俺も軽く酔っていたのだろう。その笑顔にやられて俺はついに先輩の手を取ってしまった。


その瞬間、先輩は目を丸くして俺のことを見つめた。そして、少し震えた声を出した。先ほどまでさんざんに俺に愚痴を言い散らかしていた口調とは全くの別物だった。


少し、重みの乗ったそんな声だった。


「な、なに?あなた、私の手を取るってことはそういうことよ?分かってる?」

「はい」

「私の面倒、見てく、れるの?」

「俺が見てやりますよ」


俺は言ってしまった。先輩の面倒を見るなどと。いつもは面倒を見てもらっている立場なのに。しかし、今の俺は啓人ではない。正人なのだ。無責任な発言にも聞こえる。しかし、俺は酔っている。この免罪符が俺をこんな行動に走らせたに違いなかった。


「ほら、この場所から抜け出しましょ」


俺は先輩に声をかけると、先輩の手を握ったまま立ち上がった。そして一万円を連れに渡して飲み会から抜け出した。これでひとまず、くそ男から先輩を逃がすことに成功したわけだが、これからどうしようか?なにも考えてなかったわけではなかったが、俺の横には酔って足元もおぼつかない先輩がいる。


「へへへ、正人くんだっけ?なんか悪いことしてきちゃったみたいだね」


そういって先輩は笑った。この状況を楽しんでいるようだった。俺に与えられた選択肢としてはこのまま自分の家に連れて帰るか、先輩をこのまま先輩の家に送ってやるかの二択だが。


俺の置かれている立場を考えたら確実に後者のほうがいいだろう。前者を選んだ場合、今は楽しいかもしれないが後が怖い。確実に命はなくなってしまうことだろう。


とりあえず、このまま立ち話もなんだし、場所を変えて飲み直してもいいのかもしれない。とりあえず、先輩の意見でも仰ごうか?


「この後、どうしますか?とりあえず飲み直しますか?」


俺がそう提案したが、先輩は納得のいっていない様子だった。そして口元をとがらせ、拗ねてしまった子供のようにつぶやくのだった。


「私を連れだしたくせに、なんにもしないつもりなのかしら」

「……は、は?」

「やっぱり、私には魅力がないのね」


そういって先輩は落ち込んでしまった。俺と手をつないでいないほうの手で自分の胸のサイズを気にしている。先輩はあるとまでは言わないが、まあ、スレンダーである。スタイルがいい。そうしておこう。


しかし、魅力がないなんてことはない。それだけは断言することができる。なぜかって?それは俺の俺が証明してくれているだろう。とうに俺は物事を頭で考えられなくなってきている。


「そんなこと絶対にありません」

「そ、そう?ほんとーに?」


先輩は上目づかいで俺のことを見つめてくる。そんな会話の間隔にも俺の理性はなくなっていった。


「じゃあ、正人くんがビビってるのー?へへへっ」


そういって先輩は腹を抱えて笑った。童貞などと馬鹿にしてくる。その一言で俺は頭を使うことをやめた。先ほどまで優しく握っていたてを強く握ると俺は歩きだした。


「ま、正人くん?ど、どうしたのかな?おねえさんをどこに連れてくつもり?」

「自己証明です。望さんへの気持ちと、あとは性欲です」


俺は迷わず目的地へと歩き出した。


◆◆

星が欲しい。


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