第2話

「お姉さん、どこで働いているのー?マジでかわいいし、モテるでしょー」

「モテるなんて……そんなことありません」

「敬語なんてかたいよぉー。ほら、飲んで飲んで」


テーブルの端で言い寄られている田中先輩。そりゃ、モテるだろう。会社での田中先輩は怖いし、厳しいけど、一度外に出てしまえばただ綺麗なお姉さんなのだから。それに今日は一段と可愛い。


深緑の毛糸のニット。胸元が強調される服。それを着こなせるのは先輩のスタイルだからだろう。ホワイトのパンツも相まって美しい。その服装から本気でこの合コンに挑んでいるということがわかる。


ていうか、こういうのよく行くのかな。そうだとしたら少し意外だ。別に悲しいとかそんなではない。少しだけ、ほんの少しだけ嫉妬しただけである。別に先輩が遊んでいたって俺に口出しする権利もない。彼氏ならまだしても会社の後輩なんて何の権力も持たないだろう。


そんなことを考えていると、テーブルに出していた右手をつつかれて正面を向かされる。少しだけしかめっ面の女の子がいた。


「ねー、正人君。どこ見てんのー?あ、あのお姉さん見てたんでしょー!」

「見てないよ。で、なんだっけ?」

「だから、私の上司の話だよー。くそうざいって話ー」


基本、上司なんてうざいものだ。大人にもなって指導されるなんて腹が立つだけだと思う。しかし、俺は先輩の説教を一度もうざいと思ったことはない。怖いと思ったことはあるけど。だって、先輩は俺のことを思って言ってくれているのが伝わるから。


横目で観察を続けて三十分くらいがたっただろうか?先輩はずいぶんと飲まされているように見えた。先輩はお酒に弱いというほどではないがあんまり飲まされると誰だってダメになるだろう。


けど、お酒が進むくらい楽しく話できているのならいいか。これで発展して先輩が付き合い始めたりしたら、俺としてもうれしい。


「お姉さんって、ここにきてるってことは彼氏いないってことだよね?」

「ま、まあ……そうね」

「え、じゃあさ……」


先輩が口説かれるのを目の前で見るというのもいたたまれなかったので、俺はトイレに逃げることにした。目の前にあったハイボールを飲み干してそのまま席を立った。


「いい飲みっぷりだねー」

「そんなことないよ。ちょっと、俺トイレ行ってくる」

「わかったー。待ってるねぇー」


さっきまで話していた女の子をおいて俺はトイレにこもっていた。すぐに帰ったらそれこそ、お持ち帰りされるところを見てしまうかもしれない。それは避けたい。そう思ってこもっていると、先ほどのチャラ男の声が聞こえてきた。


「えぐいわ。ぼちぼち、あの女、おとせそー。顔も体もいいし。最高じゃね?」

「マジでやめとけよ。お前、彼女いんじゃん」

「いやいや、マジでセックスするだけならあんな感じの女が良いんだよ。絶対気持ちいいぜ?」

「おまえってほんとクズだよな。尊敬するぜ」


そんな会話が聞こえた。女が田中先輩を指していることだけははっきりとわかった。

俺は握っていたスマホをポケットにしまうと、チャラ男より早くトイレを後にした。どうせ髪をセットし直すとかで時間かかるだろう。


別に田中先輩がどういう恋愛をしたってかまわないと思う。でも、今日のために頑張って可愛くした先輩の努力をあざ笑うようなことをする奴に渡すわけにはいかない。


本気で幸せにしてくれるやつ以外には先輩は渡したくなんてないんだ。この感情がなんだっていい。後輩とかいう立場で今日だけは邪魔させていただきます。


◆◆

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