第10話:孤独な戦士の決意

暗闇に包まれたダンジョンの最深部。冷たい風が頬をかすめ、足音だけが湿った岩壁に反響する。周りには無数のモンスターの残骸が散らばっていて、これまでの戦いの痕跡を静かに語っている。


「ここまで来た……」


一瞬、立ち止まってこれまでの道のりを思い返す。何度も繰り返してきた戦い、倒してきた敵、そしてただ一人で歩んできたこの孤独な道。それが俺の選んだ戦い方だった。誰にも頼らず、自分の力だけを信じ、ここまでやってきた。


「それでいいんだ。俺は一人で……」


その言葉は、自分に言い聞かせるためのものだ。過去に裏切られた経験から、誰も信じないと決めた。孤独こそが強さだと思い込んできた。だから、誰とも交わらずに戦うことが、俺の唯一の道だと信じてきたんだ。


だが、最近は何かが変わり始めているのを感じる。勝利を重ねるたびに、心の奥底で微かな虚無感が広がっていく。強くなることだけが俺の目的だったはずなのに、その先に何があるのか、次第に見えなくなってきた。


「このまま進めば、全てを手に入れられるはずだ……」


そう信じてきた。それでも、どこかで揺らいでいる自分がいるのも感じる。勝利のたびに、強さを追い求める意味が薄れていく感覚。かつてのような純粋な渇望はどこへ消えてしまったのか。戦いが続くにつれて、それが何のためなのか、よくわからなくなってきた。


「これが俺の望んだもののはずだ……」


何度も心の中で繰り返してみるが、確信がない。孤独に戦うこと、それだけを選んできた。でも、今の俺にとって、その選択が本当に正しかったのか? それがわからなくなっている。


考えるな、と思う。俺はもっと強くならなければならない。そう、強さこそが俺を支えてきた唯一のものだから。


剣を握りしめて、さらに奥へと進む。自分自身と向き合いながらも、その感情を完全に認めることはできない。孤独であることが俺にとって唯一の道だ。他の選択肢は、考えたくもない。


「仲間なんて必要ない。俺には俺の力がある……」


その言葉は、もはや信念というより呪いのように感じる。過去の傷が俺を孤立させた。誰も信じない。それだけが、自分を守る唯一の方法だと信じていた。でも、その選択が本当に正しかったのか?


ふと、かつて共に戦った仲間たちの顔が浮かんだ。裏切り、失敗――それが俺をこんなにも孤独にした。でも、もう二度と誰かに頼ることなんてない。そう決めたはずだ。


「もう二度と……誰にも頼らない」


この決意が、俺をここまで導いてきた。それが俺の力の源でもある。でも、その決意が、今では自分自身を苦しめているように感じる。孤独が強さをくれたが、その代償は心に深い闇を刻み込んでいった。


目の前に現れたのは、これまでに見たどんなものよりも異様な巨大な門。黒い霧がその周囲を蠢き、まるで生き物のようだ。


「この先に……何が待っている?」


自問する。強敵がいるのはわかる。だが、それだけなのか? 何かもっと別のものがあるのではないか……そんな気がしてならない。


「これが俺の選んだ道だ……」


その言葉を呟きながら、俺は門を押し開けた。冷たい風が頬を撫で、暗闇の奥から何かが待っている気配を感じ取る。


「俺は……一人で戦い続ける」


孤独を選んだ俺の意志は、まだ揺らいでいない。たとえその先に何が待っていようとも、俺は進むしかない。だが、心の奥では、確実に何かが変わり始めていることに気づいている。


「強さだけでは満たされないのか……?」


その問いに答えることはできないまま、剣を握りしめ、再び進むしかない。今はただ、次なる戦いに集中するしかないのだから。


選んだ道を進む覚悟は変わらない。誰にも頼らず、誰にも心を開かず、ただ一人で戦い続ける。それが俺の宿命であり、強さを追い求める唯一の方法だと信じてきた。


だが、それが本当に正しいのか――俺の心には、まだ答えが見つかっていない。


「これでいいんだ。俺には俺の力がある。それだけで十分だ……」


そう言い聞かせ、俺は次なる戦いへと足を進めた。強敵が待ち受ける未知の領域へ、孤独に挑む決意を新たにしながら、その背中には、孤独という名の影がずっとついてくる。だが、それでも俺は歩き続けるしかない。



ーーーーーーーーーーー

ここまでで第1章完結となります。


第2章完結まで1日2話ずつ更新となります。


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