第4話:さらなる高難易度のダンジョンへ

ダンジョンの裂け目が、暗闇の中で不気味に口を開けている。まるでそこから吸い込まれるような冷たい風が吹き上げ、底知れぬ恐怖を感じさせる。だが、そんな異様な雰囲気にも関わらず、俺は迷いなくその中に足を踏み入れた。


ここは、今まで挑んできたダンジョンとは違う。他の冒険者たちがこの場所を「地獄」と呼んでいるのは知っている。だが、俺にとってはただの挑戦に過ぎない。背後で数名の冒険者が俺を見つめているのを感じるが、彼らがこの先に踏み込む勇気を持っているわけではない。


「本当に、一人で行くのか?」

「俺たちだって、このダンジョンは避けているんだぞ……」


誰かがつぶやく声が聞こえるが、それもすぐにかき消された。彼らにとって、この場所は命の危険を感じる領域だ。だが、俺はそんな声には一切耳を貸さない。ただ、静かに裂け目の中へと歩を進める。


ダンジョンに足を踏み入れた瞬間、空気が一気に冷たくなり、湿った石の壁と風の音が耳に響く。ここは異質な空間だ。まるで異世界に足を踏み入れたかのような感覚だが、俺にとってはどんな場所であろうと、関係はない。


「……ここも、ただのダンジョンだ」


感情を押し殺しながら、周囲を警戒することなく、俺は歩を進める。普通の冒険者なら、この場所に足を踏み入れただけで恐怖に苛まれるだろう。しかし、俺には恐怖など感じる暇はない。モンスターがどれほど強大だろうと、俺のスキルがあれば、すべてをねじ伏せることができる。


「加速の支配者(アクセレレーター)」――俺の持つこの力は、時間を自在に操り、自分の動きを驚異的な速さにすることができる。加速した俺には、敵の攻撃はスローモーションにしか見えない。瞬時に敵を倒し、次へ進むだけだ。


奥へ進むにつれ、モンスターの数は増していく。最初に現れたのは、巨大な狼型のモンスターだ。赤く光る瞳と鋭い爪を持ち、俺に向かって襲いかかってくる。しかし、俺は動じることなく、淡々とスキルを発動する。


「加速」


その瞬間、世界が変わった。狼の動きはスローモーションに見える。実際には俺が圧倒的な速さで動いているだけだ。数秒の間に、俺は狼の背後に回り込み、その首を一撃で貫く。鋭い刃の音がわずかに響き、狼は一瞬で倒れる。


「……次だ」


狼の亡骸に一瞥もくれず、俺は先を見据える。モンスターは次々と現れるが、俺にとっては脅威にはならない。二足歩行の獣人や、巨大なゴーレム、さらには空を飛ぶドラゴン型のモンスターですら、加速した俺の動きについてこれるものはいない。


モンスターたちの咆哮や地面を揺るがす衝撃音が響いても、俺にとってはただの雑音だ。すべてがスローに流れる中、俺は冷静に敵を倒していく。


「こいつは……一体どれほどの力を持っているんだ?」


背後で冒険者たちが俺を見守っている気配を感じる。彼らはダンジョンの入り口に近づけることすらできない。俺の速さは、彼らにとっては理解不能だろう。誰も俺についてこれない。それが現実だ。


「まさに無双の覇者……」


そんな言葉が聞こえた。だが、俺にとってはどうでもいい。俺が求めるのは、他者からの称賛でもなく、仲間との絆でもない。ただ、俺自身の力を証明すること――それだけだ。


ダンジョンの奥へ進むにつれ、空気が一層重く、冷たくなる。そして、ついにその姿が現れた。これまでのモンスターとは違う。黒い影がゆっくりと俺の前に立ちはだかる。無数の腕と鋭い牙を持つその巨体。まるで闇そのものが具現化したかのようだ。


だが、俺は恐れを感じることなく、その巨体を見据える。


「……面白い」


笑みが浮かぶ。加速スキルを発動し、再び世界が遅くなる。だが、今度の敵は違った。加速している俺に対しても、鋭い反応を見せたのだ。巨体にもかかわらず、その動きは予想以上に素早い。


「ほう……」


わずかに驚きつつ、俺はさらに加速を強める。世界がさらにスローに見える中、全力でその巨体に接近し、一撃を繰り出す。刃が敵の外皮をわずかに裂くが、それだけでは倒せない。


敵は反撃に入ろうとするが、俺はすでに次の一撃を放っていた。加速スキルによって何倍もの速さで繰り出される連続攻撃に、ついにその巨体も崩れ落ちた。


倒れたモンスターを見下ろしながら、俺は立ち尽くしていた。勝利を確信するが、そこに歓喜も安堵もない。俺の周囲の時間は元に戻り、世界は通常の流れに戻った。


「まだだ……これでは足りない」


俺の戦いは終わらない。さらなる強敵を求め、俺は再び闇の中へと足を踏み入れる。誰もいない道、誰もいない戦場。俺には、俺の力だけで十分だ。

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