第3話:他者との接触を拒む理由

ダンジョンの奥へ進むたび、空気が重くなるのを肌で感じる。モンスターたちの咆哮が遠くから響き渡るが、俺には関係のないことだ。このエリアは「地獄」と呼ばれているらしいが、それも俺にとってはどうでもいい。モンスターの数が増えようと、強さが段違いに強化されていようと、ただ淡々と進むだけだ。


俺はいつも一人だ。誰にも頼らず、誰かに助けを求めることもない。背中に迷いはないし、これまでそうして生きてきた。俺の強さは、俺の力だけで成り立っている。


ある日、次のダンジョンの入り口にたどり着いた時、そこには数人の冒険者が集まっていた。遠くからダンジョンを眺め、作戦会議でもしているのだろう。険しい顔つきで、どれだけの脅威が待っているかを予想しているのが見て取れる。緊張と恐怖が、彼らの間に漂っていた。


そんな中、一人の男が俺に気づき、近づいてきた。


「おい、君もこのダンジョンに挑むのか? 一人でか?」


屈強な体つきの戦士風の男だ。周りに何人か仲間がいる様子で、彼らの間には信頼関係があるのが一目でわかる。男は俺を一瞥し、疑問と少しの敬意を込めた視線を送ってきた。


「俺たちはこのダンジョンに挑むつもりだ。仲間と力を合わせれば、攻略は確実になる。もしよければ、俺たちと組まないか?」


善意からだろう、男の声には誠実さが感じられた。仲間同士で助け合い、共に戦うことが最善策だと信じているのだろう。それでも、俺にとってはその提案は無意味だった。


「必要ない。一人で十分だ。」


俺の声には冷たさが混じっていた。協力など不要だ。相手が驚いた表情を見せたのが一瞬だったが、すぐにそれを隠して肩をすくめる。


「一人で? いや、確かにお前は強そうだが、ダンジョンの深部は……」


「必要ないと言っている」


俺はもう一度、はっきりと拒絶の意思を示した。感情のない表情のまま、冷徹な目で彼を見返した。男はしばらく俺を見つめていたが、俺の決意を察したように、無言で仲間の元へ戻っていった。


「分かった。だが、無理はするなよ。助けが欲しくなったら、声をかけろ」


そう言い残して、男は戻っていったが、俺が助けを求めることなどあり得ない。俺が一人で進むのは、自分の力だけが信じられるからだ。協力すれば、互いの足を引っ張り、弱くなる。そんなこと、俺には耐えられない。


俺が他者との関わりを拒むのは、単なる気まぐれではない。かつて、仲間を信じていた時期があったからだ。


まだ自分の力に完全には気づいていなかった頃、俺には仲間がいた。戦士、魔法使い、回復役――それぞれが役割を持ち、ダンジョンを攻略していく。その旅は俺にとって充実感に満ちていた。


だが、あの時――ダンジョンの奥で予想もしない強敵に遭遇した時、すべてが壊れた。


仲間たちは恐怖に駆られ、パニックに陥った。誰かが冷静な判断を下す必要があったが、俺にはまだリーダーとしての力はなかった。結果、彼らは俺を見捨てた。


「無理だ! 逃げよう!」


目の前で、信じていた仲間たちは次々に逃げていった。俺はその場に取り残され、敵の猛攻を一人で受け止めることになった。


その瞬間からだ、俺は「仲間」を信じることをやめたのは。誰も信じない、自分の力だけを信じる――それが、俺の生き方となった。


「他人なんて信用できない……俺には、俺の力がある。それで十分だ」


心の中でそう呟きながら、俺は再びダンジョンの奥へと進み始めた。俺の動きは、周囲にいる冒険者たちには無関心であるかのように、ただ目的地に向かっていた。


背後では、先ほどの男が俺の背中を見て、何か言っている気配があった。


「あいつ、一体何者なんだ……?」


そう思われても当然だろう。俺は他者とは違う。どれだけ強くても、誰とも心を通わせることはない。一人で戦い続ける。それが俺の選んだ道だ。


だが、俺の孤独は、この先で待ち受ける「ファントムウルフ」との出会いによって、大きく揺れ動くことになるだろう。その時はまだ知らなかったが、俺はただ、今を生きるため、誰とも関わることなく、力だけを信じて進み続ける。


俺は加速スキルを発動し、周囲のモンスターたちがまるで止まっているかのように見える中、次々に倒していった。モンスターの咆哮や不穏な空気も、俺にはただの風景に過ぎない。


仲間なんて必要ない。俺には、俺の力だけで十分だ。

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