書き出し祭りおぼえがき

4-08 ソメイヨシノで在りたくて（第四会場二位投票）

【対象作】

　4-08　ソメイヨシノで在りたくて

　https://ncode.syosetu.com/n6958jk/9/

【推し語り】

　とにかく登場人物皆の解像度がすごい！！

　これに尽きます。

　派遣社員をやりつつ売れないバンドもやっている主人公。昔YouTuberをやっていた幼馴染の綾女。喫茶店のハゲマスター。

　皆やたらとディテールが細かい。細かすぎる。

　工場での主人公の派遣番号、綾女がかつて作った動画の再生状況、ハゲマスターが出してくるサーバー単位のコーヒー……細かくて具体的で、だからこそ面白い。

　細かいディテールをまとっているからこそ、皆が可笑しくて、そして特定の種類の悲哀を帯びている。

　暮らしぶりや言動がとても具体的で細かいからこそ、登場人物それぞれが背負っている問題も、人ひとりが背負っている生のものとして感じられるように思います。

「幼馴染のひとりだけが有名になった後、取り残された側の悲哀」「何者にもなれないまま年だけ取っていく焦りと諦観」などと書いてしまえば一言なのですが……本作に漂う空気感は、それにとどまらず「個人」の軸を持っているように思います。

　個人、つまりは立体的で多層的で、他で置き換えることが不可能な唯一の存在。

　本作、物語としては「大島桜の謎を追う」ことを中心に進んでいくのでしょうが、サブ要素として主人公たちが抱えた鬱屈へも向き合ってくれそうな気がします。

　主人公たちが己の澱みに向き合い、乗り越えたり乗り越えなかったりする様子、見てみたいなあと思っています。