第27話 線路を歩く

 2人のスニーカーが、アスファルトを叩く音。


 薄暗い夜の線路沿いで、ケンと葵生はリュックサックを背負って歩いている。



「夜空、あんまりキレイじゃない」



 葵生の不服そう声を聞いて、ケンは夜空を見上げた。


 確かにほとんど星は見えていない。

 月が良く見えているから、雲が隠しているわけではないだろう。



「まあ、ここらへんは明るいからな。もっと暗くないと」

「えー。家から結構歩いたのに」

「それでも、目的地には全然だな」

「もう疲れたよ」



 ゲンナリ顔の葵生が言うと、ケンは立ち止まった。



「じゃあ、ここらへんで休むか?」

「うーん、ホテルに泊まるの?」

「いや、高校生で男女2人でホテルに泊まるのは難しいだろうな」

「大人だって、嘘つけばいいじゃん。制服も来てないんだし」



 ケンは険しい顔で首を横に振る。



「ホテルって泊まる時に身分証明書が必要なんだよ」

「へー。ホテルに泊まったことないから知らなかった」

「葵生は親に旅行に連れていかれたことないのか」

「ケンはあるんだ。楽しかった?」



 足元をじっと見つめてから、小石を蹴り飛ばした。



「地獄だった。オレだけ明らかに差別されてたから。何も買ってもらえなかったし、一切構ってってもらえなかった。『一応連れてきているだけ感謝しろ』って目で言われていた」

「うわぁ」

「オレを連れて行ったのも、世間体のためだろうし。家で一人で留守番してた方が絶対楽しかった」



 少しくらい空気になったのを察したのか、葵生はケンに笑顔を向けた。



「それで、どうやって夜を越すの?」

「もう少し進めば、ラブホ街があるはずだ」

「あ、ラブホは身分証明書なくてもいいの?」

「調べたけど、問題ない」

「へー。でも、ラブホならネカフェでもよくない?」

「いや、ネカフェも身分証明書必要だ」

「……この世の中、子供に冷たすぎる」



 それからしばらく無言で歩いていると、すぐ隣の線路を貨物列車が通過した。


 

「ねえ、やっぱり線路の中を歩かない?」

「……うーん、今電車には轢かれたくないぞ。それに、厄介事が起きたら、この旅も終わりだ」

「残念。一度やってみたかったのに。線路を歩くの。昔の映画見たいでちょっと憧れる」



 ケンは「いや、どんだけ古い映画見てるんだよ」と内心でツッコミを入れた。



「昔のゆるゆるルール時代だったり、田舎のローカル路線なら出来るかもしれないけどな」

「夢って中々叶わないなぁ」



 葵生は突然、癇癪をおこした子供みたいに、フェンスをガシャガシャ揺らした。


 すると、今度は客を乗せた電車が通り過ぎていって、葵生はじっと見つめていた。



「さっきの電車、子供連れがいっぱいいた」

「ああ、近くで夏祭りをやっているはずだな」



 一気にテンションが上がって、振り向く葵生。



「もしさ、子供連れがいっぱいいる電車に轢かれて死んだら、楽しそうじゃない!?」

「お前、結構怖いこと言うよなぁ」

「考えたことない? 幸せそうな人をメチャクチャにしたいって。自分の命と引き換えに、他人を不幸のどん底に落としてみたいって」

「まあ、なくはないが。だけど、妄想するだけだ」

「まあ、僕も流石に実行しないけど……」



 頬を膨らませる葵生に、ケンは少し険しい目を向けた。



(こいつ、オレがいなかったら本当にやりそうだ)



「でも、ひっそりと死ぬんだろ?」

「うん。ひっそりと死ぬ。でも、考えるだけで楽しいじゃん」

「……楽しい」

「自分が死んだあと、遺された人間がどんな反応をするのか、どうメチャクチャになるのか、考えるだけでワクワクする!」



 ケンは、淡い電灯に照らされた葵生の顔から、目が離せなくなっていた。



「ねえケン!」

「なんだ?」

「死に方を考えるのって、すっごく楽しいね」



 まるで舞台で踊るみたいに、クルクルと回りだした。



「これも全部、ケンが病気になってくれたおかげだよ!」



 思わず、下唇を噛む。

 でも何か言葉を返さないといけない気がして、ゆっくりと舌を動かした。



「ああ、そうだな」



 モヤモヤする気持ちは、もちろんある。

 本当は、そんなことは言ってほしくない。


 だけど、悪友の無邪気な笑顔を見ていると、細かいことはどうでもよくなっていた。






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申し訳ございませんが、章分けを削除しました


私の好みの問題です

章分けしてない方が、サブタイトルなどで話を推察してくれるかなー、と

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