第22話 体育祭で悪友に告白する①

 葵生の暴力事件から、2週間が過ぎた。

 つまりは葵生が学校に復帰する日だ。


 それをわかっているためか、クラス内の空気はピリついていた。


 クラス委員であるケンは、深いため息をついた。



(オレに人望があれば、いい感じに出来たんだろうけど)



 数日で人に信頼される程、人徳に優れているわけがない。


 親に愛されなかった、期待に応えられなかった自分が血の繋がりもない人に信用されるのは難しいことだと理解している。


 ホームルームが始まると、葵生は先生に呼ばれてみんなの前に立った。



「みなさん。今日から早乙女葵生さんが復帰します」



 緊張した視線が、葵生に突き刺さっている。



(まるで、公開処刑だ)



 『私が暴力を振るった問題児です』

 そう書いたプラカードを首から提げているように、ケンの目には映った。


 当の本人はとてもつまらなそうな顔をしている。

 ケンの部屋にいる時は、いつもフニャッと笑っているのに。



「皆さんの不安を感じていると思います。ですが、先生から言えることは1つです。無理に付き合わなくてもいいです。苦手な人、嫌いな人、いるのは当たり前ですから」



 筋肉とは全く似つかわしくない優しい笑みに、クラスの空気が少し和らいでいく。



「ただ、もし彼女が何かをするようであれば、先生に教えてください。先生が必ず対処しますから」



 つまり、先生が監督責任を負う、ということだ。


 先生の言葉のおかげで、拒絶の雰囲気が取り払われていく。

 まるで火薬庫のような扱いは変わらないけど、これなら酷いことにはならないだろう。



(先生、強くなったなぁ)



 ふと、自分の細い腕が視界に入った。



(オレも筋肉付けるか?)



 そうすれば、小枝先生みたいに精神まで強くなれるかもしれない。



(いや、何いってんだよ)



 心臓の病気だから、激しい運動をすれば寿命を縮めることになる。

 しかも、筋肉がついたところで寿命を迎えてしまう。 



「さて、そろそろ体育祭の季節です。今度、競技の配分をクラス委員に決めてもらいます。いいですね?」

「はい。わかりました」



 ケンが返事をすると、周囲は静まり返った。

 この高校では、体育祭は秋ではなく春に開かれている。



「体育祭……」



 周囲の雰囲気は、明らかに乗り気じゃない。

 受験勉強や最後の大会に集中したい。


 そんな思いが冷たい空気を伝って聞こえてくる。


 だけど――



(これがオレの最後の体育祭なんだよな)



 そう考えると、胸が感慨でいっぱいになる。

 同時に、切なさも押し寄せてくる。


 最後の体育祭を頑張りたい。

 最後なんだから、頑張っても意味ないよ。


 2つの思いがせめぎ合っている。


 

(あーもー。もう何も考えたくない)



 助けを求めるように葵生に視線を向けると、視線に気付いてニヘラと笑った。




―――――――――――――――――――――――――――

短くてすみません!

区切りのいい所がここだったので


筆が乗れば、今日もう1話公開します

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