第4話 ヤ〇ザ風TS高校生 VS 黒髪ロリ神様

「おらあ! 出て来いヤァ!」

「隠れても無駄だからなァ!?」

「逃げてもいいんだぜぇ? 追いかけっこは好きだからよぉ!」



 まるでヤ◯ザのようなことを叫びながら、2人は『包根神社』の敷地を闊歩かっぽしている。

 目的はもちろん、葵生を女体化させた張本人である。

 


「早く出てこないと神社にションベンをかけて、卑猥な落書きをするぞゴラァ!」



 ケンは本気でやる気はないのだろう。

 ベルトからカチャカチャと音を鳴らしているけど、一向にズボンを下ろす気配はない。



「おい、大変だっ!」

「どうしたんだ!?」



 葵生の驚きの声に、ケンは振り向いて――すぐに顔を背けた。



「チンコがないから、ションベンがかけられねえ!」

「お前、その姿でズボンを下ろすなよっ!? それに、パンツはどうしたんだ?」

「女物の下着なんか履けるわけがない」



 葵生はふてぶてしく言い放った



「それでノーパンはもっとおかしいだろ!?」

「別にいいだしょ。男の時も洗濯が面倒で履いてない時あったし」

「お前なあ!?」



 葵生は下半身を露出させながら堂々としているが、ケンはすごく微妙そうな顔をしている。

 下半身を露出させても恥じらいを見せていない女は不快だけど、下半身を見られるのは役得と感じてしまっているのだろう。



「なあ、女って不便だな。神社にションベンもかけられないなんて」

「あ、ああ、そうだな。とりあえずズボンを履き直してくれ」

「そこらへんで立ちションもできないし、よく考えれば紙がないといけないんだよな」

「た、たしかにそうだな。大変だよな。それよりも、ズボンを履いてみないか?」



 ケンは子供に言い聞かせるように言った。



「あー。女子トイレって込むからイヤだし、想像するだけで鬱になってきた」

「それは大変かもだな。それと、ズボンを履いてくれたらオレは嬉しいなー」

「いや、待てよ……」



 とんでもない発明を見つけたように、目を爛々と輝かせた。

 


「犬が電柱にマーキングするみたいにすれば、ションベンかければいいんじゃないか!?」

「おい、やめろ!!!」



 早速葵生が脚を上げ始めようとすると、ケンが全力で止めようとした。



『いや、何をやってるんですか?』



 突然、呆れ顔の神様が姿を現した。



「おおぅ!? 出てきたか。早速説明してもらおうじゃねえか!?」

『さっきからなんなんですか? 変な映画でも観たんですか?』



 神様が呆れたように言った。

 葵生はこれでもかと顔を近づけて、ツバを飛ばし始める。



「おめえが妙なことをするからだろ、ワレぇ!」

『妙なことって、女の子にしたことですか?』

「それ以外にナニがあるって言うんじゃああ!?」

『別にいいじゃないですか。女の子。とってもかわいいですよ』



 神様はおちょくるようにクスクスと笑うと、葵生の顔が真っ赤に染まった。


 ケンはその裏で、おっかなびっくり葵生のズボンを上げている。



「せめてチンコは残せや! フタナリにしろやぁ!」

「何を言ってるんだ葵生!?」



 ケンはアゴが外れそうなほどに叫んだ。

 葵生のフタナリ性癖は初耳だったのだろう。



『フタナリは無理ですよ。身体の構造的に』

「じゃあ、せめて元に戻せやぁ!」



 神様は「やれやれ」と肩をすくめた。



『戻らなくてもいいじゃないですか。メチャクチャかわいいですよ。人生がイージーモードになるぐらい。しかも、服や下着、あらゆる書類に至るまで女になる特典付きですよ?』

「女の体は色々と不便だし、男のほうがマシだった」

『男の時のあなたは、顔面が少々不便だったじゃないですか』

「あ゛!?」



 葵生の口から、素で汚い声が出た。



『そんなに怒らないでください』

「おめえ! それ以上」

『いや、今チンコついて無いじゃないですか』

「ち――!?」



 なぜかケンが顔を真っ赤にして、驚愕している。

 ヤンキーのクセに初心うぶである。



『まあ、一応戻れる条件は設定してますよ?』

「今すぐ戻れるのか!?」



 目を輝かせて、神様に詰め寄る。



『うーん、今すぐは無理ですね』

「ああ!? どう落とし前つけてくれるんじゃあ!?」

『いやいや、これでもかなり慈悲深いことをしてますからね? 本当は一生戻らなくすることも出来たんですから』

「本当に慈悲深い神様なら、こんなことをしねえだろ!」



 神様はニンマリと笑った。



『そこは否定しないです。ワシも品行方正な神様だと自負していませんから。そもそも品行方正な神様は祀って機嫌を取る必要がないですしね』

「それで、どうすれば戻れんじゃボケェ!?」

『1度しか言わないので、よく聞いて下さいね』



 すーっ、と大きく息を吸う音が響く。



『1年間、交尾しなければ戻れますよ?』

「こ――!?」



 また、ケンが面食らっていた。

 対して、葵生は全く動じていない。



「交尾ってセックスか」

『人間の言葉で言えばそうですね』

「いちいちカンにさわる言い方だな」

『あと、交尾したら絶対に妊娠するようにしてありますから。避妊具を付けても無駄ですよ』

「セックスしなければいいだけだろ。随分と簡単だな」

『まあ、簡単かどうかはこれからわかりますよ』



 神様は意味ありげにケンを一瞥いちべつした。

 すると、ケンが手を挙げた。



「なあ、オレからも訊いていいか?」

『なんですか? あなたはいい子みたいですからいくらでも答えますよ?』

「なんでオレには何もしなかったんだ?」

『その方が面白そうだったからです』

「おもしろ……そう?」



 ケンの表情が変わった。

 明らかに青筋が立っている。



「オレや葵生はお前のオモチャじゃないぞ?」

『あなた達はアリやトンボをオモチャにする時、許可をとるんですか?』

「虫とは話せないだろ。オレ達とお前は言葉を交わせる」

『共通の言葉を操っているからって、なんだって言うんですか? 言葉が通じるだけで尊重しあえるなら、イジメなんて起きないと思いませんか?』



 うまく言い返せなくなったのだろう。

 ケンは歯を食いしばった。



『まあ、お話しこれぐらいですかね。久しぶりに長話したので疲れました。じゃあ、さよならです』



 神様は一方的に告げると、姿を消してしまった。


 しばらく沈黙したあと、葵生は呑気に頭の後ろで手を組んだ。



「まあ、1年間セックスしなければいいだけだし、諦めて女の姿で過ごすか」

「……それでいいのか?」

「あの神様、どうせ話通じないだろ。これは諦めるしかない」



 葵生はケンからの視線に気づいて、わずかに顔をしかめた。



「ケン、おっぱい見すぎなんだけど」



 ケンは少しモジモジしながら、口を開いた。



「なあ、お前のおっぱい1回揉んでいいか?」

「いいけど、飯を1回奢れよ」



 葵生は即答した。

 ケンなら絶対に「揉みたい」と言うと想定していたのだ。


 

「……タダでもいいだろ」

「条件つけないと、ずっと揉もうとするだろ、おっぱい星人」

「…………」



 図星を突かれたのか、ケンは押し黙ってしまった。

 葵生はため息をつきながら、ケンの前に立って、背中を向けた。



「ほら、さっさと揉んで」

「なんで正面じゃないんだ?」

「おっぱい揉んでるお前の顔を見たくない」

「なるほど」



 早速、ケンの太い腕が葵生のおっぱいに伸びる。



(なんか二の腕を触られている感じ)



 気持ちいいわけではなく、少しくすぐったい程度の感覚だった。

 少し荒っぽくされても、軽い痛みが走るだけ。


 葵生にとっては、快感が走るより気楽だった。



「お、おおー。おおー」



 ケンのとても満足そうな声が耳に入って、葵生は無意識に空を見上げた。



(まあ、ケンが楽しそうならいいか)



 そう思ったのも束の間、突然ケンの動きが止まった。

 不思議に思って「どうしたの?」と訊く。



「お前、ブラは……?」

「ん? してないけど」



 葵生は「何が言いたいんだよ」と言いたげな表情を浮かべながら、首だけで振り向いた。



「…………」

「どうしたの? そんなに残念な人を見る目をして――」



 ペシッ、と。


 無表情なケンのチョップが、葵生の頭頂部を叩いたのだった。






――――――――――――――――――――――――――――

なんだこの主人公(ドン引き)



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