第3話 目が覚めると美少女になっていた!?

 朝起きると、葵生は自分の家にいた。

 ねぼけまなこを擦りながら周囲を見渡すと、小首を傾げた。



(あれ、本当に僕の部屋……?)



 一見すると見慣れた部屋。


 だけど、散らかっているモノが違う。

 昨日までは適当に買ったボクサーパンツや下着が乱雑に放られていたはずである。

 それなのに、今は全く違うものが散らばっている。

 


(…………?)



 葵生は自分の部屋に落ちていたものをじっくりと観察して、自分の中の知識と照合する。

 何度確認しても、結果はかわらない。



 ブラジャーとショーツ。

 女性物の下着。

 しかも、ショッピングモールのセール品みたいに色気のないものだ。



(まあ、とりあえず)



 葵生はブラジャーは周囲に誰もいないことを確認した後、鼻を近づけていく。



「くさっ!」



(うわ、こんな臭いがするの!?)



 若い女性だったら無条件で甘い匂いがすると信じ込んでいた葵生にとっては、あまりに衝撃的だったのだ。

 一気に目が覚めてしまった上に、興奮も冷めてしまった。



(ん?)



 体を起こそうとして、更なる違和感に気付く。



(なんか、体のバランスがおかしい)



 なぜか上半身が異様に重くて、バランスが悪い。


 さらに手を見てみると、異様に細長かった。

 葵生は「寝ぼけているのだろうか」と頭を掻きながら起き上がろうとすると――



 ♪~♪~♪~~~~



 スマホの着信音が響いた。

 飛びつくように確認すると、ケンからだった。



『おい、大丈夫か?』



 開口一番、かなり心配げな声音だった。



「どうしたんだよ。こんなに朝早く」

『何言ってんだ。もう12時過ぎてるぞ』



 とっさに時計を確認しようとしたけど、この部屋の中で時間を確認できるのはスマホだけだ。

 葵生は「ケンが変な嘘をつくわけがないか」と信じることにした。



「マジか。寝すぎた」

『なんだか声、おかしくないか? 普段より高く聞こえるが』

「そうかな。まだ水飲んでないからかも」



 喉に触れると、特に痛みを感じなかったけど、なにか・・・がない気がした。



『他に体に異常はないか?』

「んー? 異常? なんでそんなに心配してるの?」

『昨日何があったのか忘れたのか?』

「あー……」



 葵生はようやく思い出してきた。

 『包根神社』での一幕。


 だけど、すぐに別のことが引っかかった。



「あれ? 今日は終業式か」

『そうだな。もう終わってるころだ』

「うわー、やらかした」



 無断欠席に罪悪感を覚えるわけではないけど、失敗した自分に嫌気が差してしまう。



『おい、本当に大丈夫なのか? さっきから少し変だぞ』

「なんか、高熱にうかされた次の日みたいな気分」

『熱があるのか?』

「ウチ、体温計がないからわからない」



 葵生はベッドから立ち上がり、周囲に投げ出されているブラジャーを蹴った。



「それよりも、不思議なことがあったんだよ」

『不思議なこと?』

「部屋に女性物の下着がいっぱい」

『なんだそれ、エロいな』

「でしょ? なんでなんだろう」

『……本当にお前の部屋なのか? 寝ぼけて別の部屋に入り込んだんじゃないのか?』

「いや、そんなことはない……はず」



 葵生は徐々に自信が無くなって、怖くなってしまった。

 とっさに周囲を確認して、証拠を集めていく。



『今すぐ出ていったらどうだ?』

「いや、間違いなく僕の部屋だ。下着とか服以外は全く同じで、教科書に書いてある名前も僕のものだった」

『なんで家に教科書があるんだよ。おかしいだろ』

「僕は置き勉してないの」

『真面目だなー』

「ケンが不真面目すぎるんだよ」



 葵生は学校では『いい子ちゃん』でいるようにしている。

 だけれど、勉強は嫌いだし、いい子でいるのも嫌いだ。


 でも、親が学校に呼ばれるよりはマシだし、苦手なクラスメイトと絡むよりはよっぽど気楽だから、勉強をしている。



「ふわぁ~」



 思わずあくびをかいた後、習慣通りに洗面所へ向かう。



「ちょっと顔でも洗おう」

『そうしておけ』



 洗面所に入り、蛇口のレバーを動かそうとした瞬間、葵生は動きを止めた。

 視線は鏡――そこに映った自分の姿から微動だにしない。



「え?」



 目を丸くして、素っ頓狂な声を上げた。



『どうしたんだ?』

「やばい。とんでもないことになってる」



 声が震えていた。



『なんだ、何が起きてるんだ!? 無事なのか!?』



 切羽詰まった声から、ケンの心配がにじみ出ている。

 葵生はワナワナと手を震わせながら、全力で叫ぶ。



「おっぱいだ! おっぱいが生えてる!!!」

『いや、本当に何が起きてるんだ!?!?』



 鏡に映った葵生は、明らかに女の体になっていた。

 しかもかなりの黒髪美少女。

 喋らなければ深窓の令嬢に見えるほどだ。


 胸も大きく、スタイルも抜群だ。


 葵生はとりあえず自分のおっぱいを揉んで、考えを巡らせる。



『おい、葵生、返事をしろ!』

「あー。とりあえず、今からお前んち向かうわ」

『おい、どういう――』



 葵生はさっさと通話を切ってしまった。

 すぐにケンがかけなおしてきたけど、無視を決め込む。



(どうせなら、いっぱい驚いてもらおう)



 葵生は整った顔が台無しになるほど、イヤらしい笑みを浮かべていた。





☆★☆★☆★





「お前、本当に葵生なのか!?」

「そう言ってるだろ」



 ケンが住むマンションの一室。

 その玄関にて、ヤンキーは目が飛び出そうなほどに驚いていた。


 葵生は学校のジャージを着ているけど、服の上からでもわかるぐらい胸が豊満だ。



「えっと、一応葵生だという証拠はあるか?」

「ケンの片思いの相手は、図書委員の巨乳メガネ娘」

「……間違いなく葵生だな」



 2人だけの秘密にしている事実だからこそ、ケンは認めるしかなかった。



「どうしてそんなことになってるんだ?」

「そりゃあ、あの神社での出来事が原因だろ」

「そうだよな」

「全く、女の体は不便で困る。歩くのも遅くなった」

「それは大変だな」



 ケンは葵生の顔を見て会話していない。

 ずっとおっぱいをガン見している。


 

(こいつ、おっぱい星人だからなー)



 呆れた顔をしながらも、葵生は話を続ける。



「じゃあ、早速行くぞ」



 たったそれだけの言葉に、ビクリと過敏に反応するケン。



「まさか、ホテルか!?」

「なんでそうなるんだよ」

「あ、いや、すまん……」



 葵生の白けた視線が、ケンの股間に突き刺さる。

 明らかに戸惑っているケンが面倒になってきて、無理矢理手を握る。



「ほら、行くぞ。今からケジメをつけさせに行くんだから」

「え、あ、お前の手――」

「ん? なんだよ」

「いや、なんでもない……」



 不思議に思いながら手を引っ張ると、ケンの顔は複雑な表情をしていた。

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