第35話 両世界の架け橋

 研究室で目覚めてから数日が経った。

 私とリリアの体調も少しずつ回復し、新たな能力にも徐々に慣れてきていた。

 テレパシーによる意思疎通は、もはや日常的なものとなり、時には言葉を交わさずに長い会話を楽しむこともあった。


 しかし、その日の朝、突然の感覚が私たちを襲った。


「リリア、今の……」


「ええ、感じたわ」


 私たちは顔を見合わせた。

 それは、まるで体の中に新たな回路が開かれたような感覚だった。

 そして、その回路の先に広がる風景が、私たちの心に浮かび上がる。


「アルカディア……?」


 リリアの声が、私の心の中で響いた。

 確かに、その風景はリリアの故郷、アルカディアそのものだった。

 魔法の塔が立ち並ぶ街並み、空を舞う魔法の絨毯、そして遠くに広がる神秘的な森。

 それらが、まるで目の前にあるかのようにはっきりと見えた。


「どういうこと……?私たち、アルカディアを見ているの?」


 私は困惑しながら尋ねた。

 リリアも同じように戸惑っている様子だった。


「分からないわ。でも、これは単なる映像じゃない。まるで……」

「そこにいるような感覚?」

「そう」


 私たちは再び顔を見合わせた。

 そして、同時に同じ考えが浮かんだ。


「試してみる?」


 リリアが提案し、私も頷いた。

 私たちは手を繋ぎ、目を閉じる。

 そして、心の中でアルカディアの風景に意識を集中させた。


 突然、体が軽くなるような感覚があった。

 目を開けると、そこはもう研究室ではなかった。


「ここは……本当にアルカディア!?」


 私は驚きの声を上げた。

 周りを見回すと、確かにアルカディアの街並みが広がっていた。

 空には魔法の光が漂い、街路には魔法使いたちが行き交っている。


「信じられない……」


 リリアも呆然としていた。

 彼女の目には、懐かしさと驚きが混ざっている。


「私たち、本当にアルカディアに来てしまったの?」

「そのようだな」


 突然聞こえた声に、私たちは振り返った。

 そこには、マーカス長老が立っていた。


「長老!どうして……」

「君たちの気配を感じてな」


 長老は穏やかに微笑んだ。


「まさか、こんな形で再会することになるとは思わなかったが」


 私たちは状況を説明した。

 研究室で感じた不思議な感覚、そして意識を集中させたらここに来てしまったこと。

 長老は真剣な表情で聞いていた。


「なるほど……」


 長老は深く考え込んだ様子で言った。


「君たちの融合が、予想以上の結果をもたらしたようだ」

「どういうことですか?」

「君たちは、両世界を繋ぐ架け橋となったのだ」


 その言葉に、私とリリアは息を呑んだ。


「架け橋……?」

「そう」


 長老は頷いた。


「君たちの存在そのものが、アルカディアと現代世界を繋ぐ通路になったのだ。恐らく、君たちは意識を集中させれば、いつでも両世界を行き来できるはずだ」


 その説明を聞いて、私たちは改めて自分たちの体の変化を感じ取った。

 確かに、体の中に両世界を繋ぐ何かが存在している。

 それは、まるで新たな器官のようだった。


「でも、どうしてこんなことが……」

「恐らく」


 長老は説明を続けた。


「君たちが時空の亀裂を修復した際、その過程で両世界のエネルギーを体に取り込んでしまったのだろう。そして、君たちの融合がそのエネルギーを安定させ、恒久的な架け橋として機能するようになったのだ」


 その説明を聞いて、私たちは自分たちの役割の重大さを改めて実感した。

 私たちは単に両世界を救っただけではない。両世界を繋ぐ架け橋そのものになったのだ。


「これって……すごいことよね」


 リリアが呟いた。

 彼女の心の中に、期待と不安が入り混じっているのが伝わってきた。


「ええ」


 私も頷いた。


「私たちには、大きな責任が課されたってことね」


 長老は私たちを見つめ、静かに言った。


「確かに、これは大きな責任だ。しかし同時に、素晴らしい機会でもある。君たちは、両世界の交流と理解を促進する存在となれるのだ」


 その言葉に、私たちの心に新たな決意が芽生えた。

 確かに、この力は大きな責任を伴う。

 しかし、それは同時に両世界をより良い方向に導く可能性も秘めている。


「私たち、やってみる」


 私は強く言った。

 リリアも同意するように頷いた。


「両世界の架け橋として、できる限りのことをしてみせるわ」


 長老は満足そうに微笑んだ。


「よし、では早速始めようか。両世界の代表者たちに会ってもらおう」


 私たちは頷き、長老について歩き出した。

 その瞬間、私は不思議な感覚に包まれた。

 それは、まるで両世界が私たちの中で共鳴しているかのようだった。


 アルカディアの街を歩きながら、私は現代世界のことを思い浮かべた。

 すると、不思議なことに現代世界の風景が重なって見えた。

 二つの世界が、私たちの中で完全に繋がっているのだ。


「リリア、感じる?」

「ええ」


 リリアも同じように感じているようだった。


「私たちの中で、両世界が一つになっているみたい」


 その感覚は、言葉では表現できないほど不思議で、そして心地よいものだった。

 私たちは、文字通り両世界の架け橋となったのだ。


 これから私たちは、この新たな力を使って両世界のために尽くしていく。

 それは、きっと大変な道のりになるだろう。

 しかし、私たちには乗り越えられない壁はない。


 なぜなら、私たちはもう二人で一つの存在。

 そして、両世界を繋ぐ架け橋なのだから。


 新たな冒険の幕開けを感じながら、私たちは長老と共に歩みを進めた。

 両世界の未来が、今まさに私たちの手の中にある。その責任の重さと、可能性の大きさを感じながら。

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