第36話 信頼を勝ち取るために
アルカディアでの出来事から数日が経ち、私とリリアは現代世界に戻っていた。
両世界を自在に行き来できるようになった私たちは、まるで二つの家を持つ子供のような気分だった。
しかし、その特殊な立場ゆえの責任の重さも、日に日に実感するようになっていた。
「アヤカ、今日の会見の準備はできてる?」
リリアの声が、私の心の中に直接響いた。
テレパシーによるコミュニケーションにも、すっかり慣れてきていた。
「ええ、大丈夫よ」
私は返事をしながら、鏡の前で服を整えた。
今日は、両世界の代表者たちの前で、私たちの経験と今後の展望について話すことになっていた。
「緊張する?」
リリアの問いかけに、私は少し考え込んだ。
「正直、ちょっとね。でも、あなたがいるから大丈夫」
「私も同じよ」
リリアの温かい気持ちが伝わってきて、心が落ち着いた。
会見の会場に到着すると、そこにはアルカディアと現代世界の要人たちが集まっていた。
魔法使いのローブを着た人々と、スーツを着たビジネスマンたちが同じ空間にいる光景は、まだ私にとって不思議なものだった。
「みなさん、お待たせしました」
マーカス長老の声で、会場が静まり返った。
「本日は、両世界の危機を救った二人、リリアとアヤカに話を聞きたいと思います」
私たちは壇上に立ち、深呼吸をして話し始めた。
時空の亀裂の発生から、テクノマジックの開発、そして最後の決断まで。すべてを包み隠さず話した。
話し終えると、会場は一瞬静まり返った。
そして次の瞬間、大きな拍手が沸き起こった。
「素晴らしい!」
「両世界を救ってくれてありがとう!」
「君たちは英雄だ!」
称賛の声が次々と上がり、私たちは少し戸惑いながらも、感謝の言葉を述べた。
しかし、すべての人が私たちを歓迎しているわけではないことにも気づいた。
会場の隅に、警戒的な目で私たちを見つめる人々がいたのだ。
「リリア、あの人たち...」
「ええ、気づいたわ」
テレパシーで交わされた私たちの会話は、周りには聞こえない。
会見が終わり、個別の質問を受ける時間になった。
多くの人々が好意的な質問をしてくれる中、一人の男性が厳しい口調で質問をしてきた。
「あなたたちの力は、本当に安全なのですか?」
その質問に、会場の空気が一瞬凍りついた。
「どういう意味でしょうか?」
私は冷静を装いながら聞き返した。
「つまり」
男性は続けた。
「あなたたちには、両世界を行き来する力があるわけですよね。その力が悪用されたら、どうなると思います?」
私とリリアは顔を見合わせた。
確かに、その懸念はもっともだった。
「おっしゃる通り、私たちの力には大きな責任が伴います」
リリアが答えた。
「しかし、私たちはこの力を両世界の平和と発展のためだけに使うことを誓います。そして、その使用については常に両世界の代表者たちの監視下に置くつもりです」
私も付け加えた。
「私たちは、この力が与えられた責任を十分に理解しています。決して独断で行動することはありません」
しかし、男性の表情は緩和されなかった。
「言葉だけではね。誰があなたたちを信用できるというのです?」
その言葉に、会場にざわめきが起こった。
私たちの支持者たちが反論しようとする中、マーカス長老が静かに口を開いた。
「信頼は、時間をかけて築くものです。彼女たちには、これから行動で示していく機会が十分にあるでしょう」
長老の言葉に、会場は少し落ち着いた。
しかし、私たちへの警戒の目は完全には消えなかった。
会見が終わり、私たちは疲れ切った様子で部屋に戻った。
「大変だったね」
私は深いため息をついた。
「ええ」
リリアも同意した。
「でも、予想はしていたわ」
「そうね。私たちの力は、確かに両刃の剣だもの」
私たちは黙ってしばらく考え込んだ。
確かに、私たちは両世界から称賛されている。
しかし同時に、その力ゆえに警戒もされている。
これからどうやってその信頼を勝ち得ていくか、大きな課題だった。
「でも、諦めるわけにはいかないわ」
リリアが決意を込めて言った。
「そうね」
私も頷いた。
「私たちにはできることがある。両世界の架け橋として、少しずつでも理解と信頼を深めていく」
「そう、一歩ずつね」
私たちは互いに微笑みかけた。
確かに道のりは長く、困難も多いだろう。
しかし、私たちには乗り越えられない壁はない。
「明日からまた頑張ろう」
「ええ、一緒に」
私たちの決意は、テレパシーを通じて完全に一つになった。
これからの日々は決して楽ではないだろう。
称賛と警戒の目にさらされながら、両世界の架け橋としての役割を果たしていく。
しかし、それこそが私たちに与えられた使命なのだ。
アルカディアと現代世界、二つの世界の未来のために。
私たちは、その重責を全身全霊で受け止める覚悟ができていた。
窓の外を見ると、夜空に星が輝いていた。
その光は、まるで私たちの決意を後押ししてくれているかのようだった。
明日からまた、新たな一歩を踏み出す。
両世界の人々の信頼を勝ち取るため、そして平和な未来を築くために。
私とリリアは、固く手を握り合った。
二人の心が一つになり、両世界を繋ぐ架け橋として、新たな冒険の幕開けを迎えようとしていた。
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