第34話 世界を救った代償
私の意識が戻ってきたとき、最初に感じたのは、全身を包む不思議な温かさだった。
目を開けると、そこには見慣れた研究室の天井が広がっていた。
しかし、何かが違う。
視界の隅に、これまでにない光の粒子が舞っているのが見えた。
「アヤカ!」
父の声が聞こえ、顔を向けると、心配そうな表情で私を見下ろしていた。
その隣には、マーカス長老の姿もあった。
「お父さん……長老……」
私は体を起こそうとしたが、なぜか体が思うように動かない。
そして、その瞬間気がついた。
私の隣で、リリアが横たわっていたのだ。
「リリア!」
私は思わず彼女の名前を呼んだ。
すると、まるで私の声に反応したかのように、リリアの瞼がゆっくりと開いた。
「アヤカ……」
リリアの声が聞こえた瞬間、不思議な感覚が私を包み込んだ。
それは、まるで彼女の思考や感情が直接私の中に流れ込んでくるかのようだった。
「リリア、あなたの気持ち……感じる」
私は驚きながら言った。
リリアも同じように驚いた表情を浮かべている。
「私も……アヤカの思いが、こんなにはっきりと」
私たちは顔を見合わせ、そして同時に理解した。
私たちの間に、これまでにない強い絆が生まれていたのだ。
「テレパシー……」
父が呟いた。
「まさか、本当にそんなことが……」
マーカス長老は、深い思慮に沈んだ表情で私たちを見つめていた。
「予想以上の代償を払ったようだな」
その言葉に、私とリリアは顔を見合わせた。
確かに、体の中に何か大きな変化が起きたことは感じていた。
しかし、それが具体的に何なのかは、まだ把握できていなかった。
「長老、私たち……一体何が」
リリアが尋ねた。
マーカス長老は、ゆっくりと説明を始めた。
「君たち二人は、自らの生命力を使って時空の亀裂を修復した。その過程で、君たちの存在そのものが一体化してしまったのだ」
その言葉に、私は息を呑んだ。一体化? それは一体どういうことなのか。
「つまり……私たちは……」
「ああ」
長老は頷いた。
「君たちは今、一つの魂を二つの体で共有しているようなものだ」
その説明を聞いて、私は自分の体の変化をより深く感じ取ることができた。
確かに、リリアの存在が、まるで自分の一部のように感じられる。
そして、彼女の思考や感情が、まるで自分のもののように伝わってくる。
「でも、それだけじゃないわ」
リリアが言った。
彼女の声には、どこか悲しみの色が混じっていた。
「私たちの寿命……短くなったのね」
その言葉に、私も同じことを感じ取っていた。
体の中のエネルギーが、これまでより早く消耗していくような感覚。
それは、私たちの生命力が大きく減少したことを意味していた。
「ごめんな……」
父が申し訳なさそうに言った。
「もっと他の方法があったはずなのに……」
「いいえ、お父さん」
私は首を振った。
「これは私たちが選んだ道よ。後悔はしていない」
リリアも同意するように頷いた。
「そうよ。私たちは、両世界を救うためにこの力を使ったの。それは、決して間違いじゃない」
私たちの言葉に、父とマーカス長老は複雑な表情を浮かべた。
しかし、その目には敬意の色も見えた。
「確かに、君たちの行動は両世界を救った」
マーカス長老が言った。
「時空の亀裂は完全に修復され、アルカディアと現代世界の融合も安定した。君たちの犠牲は、決して無駄ではなかったのだ」
その言葉に、私とリリアは安堵の息をついた。
しかし同時に、これからの人生に対する不安も湧いてきた。
「でも、これからどうすれば……」
私が呟いた瞬間、リリアの思いが私の中に流れ込んできた。
それは、不安と希望が入り混じった複雑な感情だった。
「大丈夫よ、アヤカ」
リリアが私の手を握った。
その瞬間、私たちの間でエネルギーが流れ合うのを感じた。
「私たちには、まだやるべきことがたくさんある。この新しい力を使って、両世界のために」
リリアの言葉に、私も勇気づけられた。
確かに、私たちの人生は大きく変わってしまった。
寿命は短くなり、これまでにない力を手に入れた。
しかし、それは同時に新たな可能性をも意味していた。
「そうね、リリア」
私は微笑んだ。
「私たちの冒険は、ここからが本当の始まりなのかもしれない」
その言葉に、部屋中が希望に満ちた空気に包まれた。
確かに、これからの道のりは険しいかもしれない。
しかし、私たちには乗り越えられない壁はないはずだ。
なぜなら、私たちはもう二人で一つの存在なのだから。
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