第33話 手を伸ばして、リリア
マーカス長老の姿が、黒い霧と光の渦に飲み込まれていく。
その壮絶な光景を背に、私はリリアの元へと必死に歩を進めた。
彼女の体は、まだ半ば光となって宙に浮かんでいる。
「リリア……」
私は呼びかけた。
かすかに、光の中で人の形が揺らめくのが見えた。
「アヤカ……もう……いいの」
かすかな声が聞こえた。
リリアの声だ。
「何言ってるの! まだ諦めるなんて早いわ!」
私は叫んだ。
しかし、リリアの声は弱々しく続く。
「でも……もう……私は……」
その言葉に、私の中で何かが弾けた。
「ダメ! 絶対にダメよ!」
私は叫びながら、リリアの光に手を伸ばした。
しかし、その瞬間、激しい痛みが全身を走った。
「くっ……!」
歯を食いしばる。
この程度で諦めるわけにはいかない。
「アヤカ、危ない!」
父の声が聞こえた。
しかし、もう後には引けない。
「お父さん、私……決めたの」
私は振り返り、父に向かって微笑んだ。
「リリアを救って見せる。たとえ……私の命と引き換えになっても」
父の顔が驚きと恐怖で歪んだ。
「アヤカ、そんなことを……!」
しかし、私の決意は揺るがない。
「大丈夫よ、お父さん。私……後悔しない」
そう言って、私は再びリリアの光に手を伸ばした。
今度は、覚悟を決めて。
「リリア、聞こえる? 私よ、アヤカ」
光の中で、かすかに人の形が動いた。
「一緒に帰りましょう。二人で」
私は、自分の生命力を解放した。
それは、まるで体の中から光が溢れ出すような感覚だった。
その瞬間、激しい痛みと共に、私の意識が遠のき始めた。
しかし、諦めるわけにはいかない。
「リリア……!」
私は叫んだ。
すると、不思議なことが起こった。
私の体から溢れ出た光が、リリアを包む光と混ざり始めたのだ。
まるで、二つの光の渦が一つになっていくかのように。
「あ……」
驚きの声が漏れた。
この感覚は、以前リリアと経験した共鳴現象に似ている。
しかし、今回はその比ではない強烈さだ。
私の中で、何かが大きく変化していくのを感じた。
それは恐ろしくもあり、同時に心地よくもあった。
「アヤカ……?」
リリアの声が、はっきりと聞こえた。
「リリア!」
私は喜びの声を上げた。
そして、さらに強く生命力を解放した。
すると、予想もしなかったことが起こった。
私とリリアを包む光が、突如として輝きを増したのだ。
その光は、まるで太陽のように眩しく、しかも暖かかった。
「これは……」
父の驚いた声が聞こえた。
光の中で、私はリリアの手を掴んだ。
その瞬間、強烈な感覚が全身を駆け巡った。
それは、言葉では表現できないような感覚だった。
まるで、リリアの思考や感情が直接私の中に流れ込んでくるかのよう。
そして同時に、私の思いもリリアに伝わっているのが分かった。
「アヤカ……あなたの気持ち、伝わってくるわ」
リリアの声が、私の中で響いた。
「リリア……私も。あなたの全てが分かる」
私たちの生命力が、完全に一つになった。
そして、その瞬間、予想もしなかった変化が起こり始めた。
私たちを包む光が、さらに強く、そして広く広がっていく。
その光は、まるで生命そのもののエネルギーのようだった。
「アヤカ、リリア! 何が起きてるんだ?」
父の声が聞こえた。
しかし、私たちにはもう答える余裕はなかった。
光は、私たちの周りの空間を包み込み、そして……。
「うわっ!」
突然の衝撃と共に、私とリリアの意識が一つに溶け合った。
その瞬間、私たちは全てを理解した。
テクノマジックの真髄。
両世界の本質。
そして、この危機の真の原因。
それは、言葉では表現できないほどの膨大な情報量だった。
しかし、不思議なことに、全てが完璧に理解できた。
「アヤカ……これが」
「ええ、リリア。私たちが求めていたもの」
私たちの声が、一つになって響いた。
そして、その力を使って、私たちは行動を起こした。
光が、さらに広がっていく。
それは、時空の亀裂を包み込み、そして……修復し始めた。
「信じられない……」
父の声が聞こえた。
しかし、私たちにはもう周りの状況を気にする余裕はなかった。
ただ、この力を使って、両世界を救うことだけに集中していた。
亀裂が次々と閉じていく。
黒い霧が消えていく。
そして、アルカディアと現代世界の風景が、徐々に元の姿を取り戻していく。
しかし同時に、私たちの意識も徐々に薄れていくのを感じた。
「リリア……もう長くは……」
「ええ、分かってる。でも、最後まで……」
私たちは、残りわずかな力を振り絞った。
そして、最後の亀裂が閉じる瞬間。
強烈な光が、世界を包み込んだ。
その後、私の意識は闇に落ちていった。
最後に聞こえたのは、父とマーカス長老の驚きの声。
そして、リリアの温かな思い。
「アヤカ……ありがとう」
私たちの意識は、深い眠りに落ちていった。
しかし、それは終わりではなく、新たな始まりの予感がしていた。
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