第21話 テクノマジックの可能性

 父の協力を得て、テクノマジックの研究は飛躍的に進展していった。

 父の過去の研究データと私たちの知識を組み合わせることで、新たな可能性が次々と開かれていったのだ。


 そんなある日の実験中、思いもよらない現象が起きた。


「リリア、準備はいい?」


 私は魔力増幅装置のスイッチに手をかけながら、リリアに声をかけた。


「ええ、大丈夫よ」


 リリアが頷くのを確認して、私はスイッチを入れた。

 すると、いつものようにリリアの周りに淡い光が現れ始めた。

 しかし、その瞬間……。


「あれ?」


 私は思わず声を上げた。

 なぜなら、リリアの周りの光だけでなく、私の周りにも同じような光が現れ始めたのだ。


「アヤカ、これ……」


 リリアも驚いた様子で私を見つめている。

 私たちの周りの光は、まるで呼応するかのように明滅を繰り返していた。


「どういうことだ?」


 父が慌てて計測器を持ってきた。


「信じられない……」


 父は測定結果を見て、目を丸くした。


「君たち二人のマナの波長が、完全に同期している」


「同期?」


 私とリリアは顔を見合わせた。


「そう」


 父は興奮した様子で説明を始めた。


「アヤカ、君にはマナがないと思っていたが、実はごくわずかに存在していたんだ。そして今、リリアのマナと共鳴して、増幅されている」


 その言葉に、私は驚きを隠せなかった。

 私にマナが? そして、リリアと共鳴?


「でも、どうして今まで気づかなかったの?」


 リリアが不思議そうに尋ねた。


「おそらく」


 父は考え込むように言った。


「君たち二人の関係性が、ある臨界点を超えたからだろう。信頼関係や絆の深さが、この現象のトリガーになったのかもしれない」


 その説明を聞いて、私はなぜか少し照れくさくなった。

 リリアの頬も、わずかに赤くなっているように見えた。


「じゃあ、この現象は……」


「ああ」


 父は頷いた。


「君たち二人の魔力と生命力が共鳴している証拠だ。これは、テクノマジック研究にとって革命的な発見かもしれない」


 私たちは、この予期せぬ発見に興奮を隠せなかった。

 早速、この現象をテクノマジック研究にどう活用できるか、話し合いを始めた。


「もしかしたら」


 リリアが目を輝かせて言った。


「この共鳴を利用すれば、私たちの魔力をさらに増幅できるかもしれない」


「そうだね」


 私も同意した。


「それに、私のような魔力の少ない人間でも、魔法が使えるようになるかもしれない」


 父も熱心に議論に加わった。


「確かに可能性は大きい。しかし」


 父は少し表情を曇らせた。


「危険性も考慮しなければならない」

「危険性?」


 私とリリアは、父の言葉に顔を見合わせた。


「そう」


 父は真剣な表情で続けた。


「例えば、この共鳴が制御不能になったらどうなる? 二人の生命力が急激に消耗する可能性もある」


 その言葉に、私たちは沈黙した。

 確かに、そんな危険性も考えられる。


「それに」


 父はさらに付け加えた。


「もしこの技術が悪用されたら……他人の生命力を強制的に奪うこともできてしまうかもしれない」


 その可能性を聞いて、私は背筋が凍るのを感じた。

 テクノマジックの力は、使い方次第で恐ろしい武器にもなりうるのだ。


「でも」


 しばらくの沈黙の後、リリアが静かに口を開いた。


「だからこそ、私たちが責任を持って研究を進めなければいけないのよね」


 私も頷いた。


「そうだね。この力を正しく使う方法を、私たちが見つけなきゃ」


 父は満足そうに微笑んだ。


「その通りだ。危険性を認識しつつ、可能性を追求する。それが真の研究者の姿勢だ」


 その日以降、私たちは共鳴現象の研究に没頭した。

 その過程で、様々な発見があった。


 例えば、共鳴時には通常の何倍もの魔力を扱えること。

 また、私のような魔力の少ない人間でも、リリアとの共鳴によって簡単な魔法が使えるようになったこと。


 さらに興味深いことに、共鳴中は互いの感情や思考までもが共有されるような感覚があった。

 これは、テクノマジックの応用範囲を大きく広げる可能性を秘めていた。


 しかし同時に、父の警告通りの危険性も明らかになっていった。

 長時間の共鳴は、確かに体力を大きく消耗させた。

 また、感情の共有は時として精神的な負担にもなりうることが分かった。


「ねえ、アヤカ」


 ある日の実験後、リリアが不安そうに私に話しかけてきた。


「この力、本当に私たちでコントロールできるのかしら」


 私も同じ不安を感じていた。

 しかし、同時にこの力の可能性も知っている。


「大丈夫」


 私はリリアの手を取った。


「二人でなら、きっと乗り越えられる。それに、お父さんや他の仲間たちもいるしね」


 リリアは少し安心したように微笑んだ。


「そうね。一緒なら、きっと……」


 その言葉に、私たちの周りにまた淡い光が現れ始めた。

 今度は意図せずして起きた共鳴現象だ。

 しかし、不思議と怖さは感じなかった。


 むしろ、この光に包まれていると、なぜか心強さを感じた。

 きっと、これが私たちの絆の証なのだろう。


「よし、明日からまた頑張ろう」

「ええ、そうね」


 私たちは微笑みあった。

 未知の力を前に、不安と期待が入り混じる。

 しかし、この力をコントロールし、正しく使うことができれば、きっと世界を救えるはず。


 そう信じて、私たちの研究は続いていく。

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