第20話 父との和解

 マーカス長老の言う安全地帯。

 そこは魔法によって作られた家のように見えた。

 そして、そこには私の父もいた。

 聞くと、父もマーカス長老によって救出されたのだという。


 良かったと安堵すると同時に、緊張が私の心を支配する。

 こんな緊急事態だというのに、やっぱり私は父を頼れない。


 そんなある日の夕方、私が帰宅すると、玄関で父が待っていた。


「アヤカ、話があるんだ」


 父の声は、いつもより柔らかく聞こえた。

 私は少し戸惑いながらも、リビングへと向かった。


「どうしたの、お父さん?」


 テーブルに向かい合って座ると、父はしばらく沈黙していた。

 そして、ゆっくりと口を開いた。


「アヤカ、君のテクノマジックの研究……本当のことを教えてくれないか」


 その言葉に、私は息を呑んだ。

 これまで父には、研究の詳細を隠していたのだ。

 危険を感じさせたくなかったし、何より信じてもらえないだろうと思っていた。


「お父さん、それは……」


 言葉に詰まる私に、父は静かに続けた。


「実は、私も若い頃に似たような研究をしていたんだ」

「え?」


 思わず声が出た。父が、テクノマジックに近い研究を?


「そうだ」


 父はゆっくりと頷いた。


「量子力学と未知のエネルギーの関係性について研究していてね。当時は『狂気の研究』と呼ばれたものだった」


 父の話に、私は驚きを隠せなかった。

 科学者として尊敬していた父が、そんな研究をしていたなんて。


「でも、結局は行き詰まってしまった」


 父は少し寂しそうに微笑んだ。


「そして、『現実的な』研究に転向したんだ」


 私は、父の表情に何か懐かしさと後悔のようなものを感じた。


「お父さん……」

「アヤカ」


 父は真剣な眼差しで私を見た。


「君の研究は、私の夢の続きなのかもしれない。だから、協力させてほしい」


 その言葉に、私は思わず涙が込み上げてきた。

 これまで距離を感じていた父が、今、私の味方になってくれようとしている。


「本当に……いいの?」

「ああ」


 父は力強く頷いた。


「君たちの研究が、世界を変える可能性を秘めているのは分かっている。そして、危険と隣り合わせであることも」


 父は一度深呼吸をして、続けた。


「だからこそ、私の経験が役に立つかもしれない。君たちを守りながら、研究を進めていく方法を一緒に考えたい」


 その瞬間、私は父に飛びついていた。


「ありがとう、お父さん!」


 父は優しく私の背中をさすった。


「すまなかったな、アヤカ」


 父の声が少し震えた。


「最初は君の研究を危険視して、止めようとしてしまって」

「ううん」


 私は首を振った。


「私こそ、隠していてごめんなさい」


 しばらくの間、私たちは抱き合ったまま、これまでの行き違いを静かに悔やんでいた。


「それで」


 しばらくして父が言った。


「その『リリア』という子にも会ってみたいんだが」


 私は少し驚いて顔を上げた。


「どうして リリアのことを……?」


 父は少し照れくさそうに笑った。


「父親として、娘の様子がおかしいのは気づいていたさ。そして、君が頻繁に口にする『リリア』という名前……何か特別な存在なんだろう?」


 私は少し赤面しながら、頷いた。


「うん、リリアは……特別な存在だよ。彼女がいなければ、この研究は成り立たなかった」


「そうか」


 父は優しく微笑んだ。


「じゃあ、彼女にも会って、話を聞かせてもらおう」


 その日の夜、私はリリアに連絡を取り、状況を説明した。

 彼女も最初は驚いていたが、すぐに喜んで父との面会に同意してくれた。


 翌日、リリアが我が家を訪れた。


「はじめまして、アヤカのお父様」


 リリアは丁寧にお辞儀をした。


「リリアと申します」


 父は温かい笑顔でリリアを迎え入れた。


「よく来てくれた、リリア。アヤカから聞いているよ。君の力がなければ、この研究は成り立たないんだってね」


 リリアは少し照れくさそうに頷いた。


「いいえ、私一人では何もできません。アヤカがいてこそです」


 父は満足そうに二人を見つめた。


「さて」


 父は真剣な表情になった。


「これからの研究の進め方について、一緒に考えよう。私にできることは何でも協力するつもりだ」


 その言葉に、私とリリアは顔を見合わせて笑顔になった。


「ありがとうございます」


 リリアが深々と頭を下げる。


「本当にありがとう、お父さん」


 私も心からの感謝を伝えた。


 父の協力を得て、私たちの研究は新たな段階に入った。

 父の過去の研究成果と、私たちのテクノマジックの知識を組み合わせることで、思いもよらない発見が続いた。


 そして何より、父との関係が修復されたことが、私にとっては大きな励みになった。

 これまで感じていた孤独感が薄れ、より強い決意を持って研究に臨めるようになったのだ。


 虚空議会との戦いはまだ続いている。

 しかし、今なら乗り越えられる。

 父とリリア、そして仲間たちと共に、きっと道は開けるはず。


 そう信じて、私たちは前に進み続けた。

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