第18話 魔力増幅

 テクノマジックの研究が進むにつれ、私たちは新たな課題に直面していた。

 理論は日に日に洗練されていったものの、実際の応用となると、まだまだ力不足だった。

 特に、大規模な現象を制御するには、莫大な魔力が必要になる。

 その事実に気づいたとき、私の頭に一つのアイデアが浮かんだ。


「ねえ、リリア」


 ある日の実験の合間に、私は思い切って切り出した。


「君の魔力を増幅する装置を作れないかな」


 リリアは驚いたような顔をした。


「私の魔力を……増幅?」

「そう」


 私は熱心に説明を始めた。


「今のテクノマジックでも、小規模な現象なら制御できるようになってきた。でも、世界を救うためには、もっと大きな力が必要だ」


 リリアはしばらく考え込んでいたが、やがてゆっくりと頷いた。


「確かに……でも、そんなことできるの?」


「やってみなきゃわからない」


 私は自信なさげに笑った。


「でも、理論上は可能なはずだ」


 こうして、リリアの魔力を増幅する装置の開発が始まった。

 これは、これまで私が取り組んできた中で最も挑戦的なプロジェクトだった。


 まず、リリアの魔力の性質を詳細に分析することから始めた。

 彼女に様々な魔法を使ってもらい、そのときのマナの流れを精密に測定する。


「リリア、もう一度あの光の魔法を使ってくれる?」

「うん、わかったわ」


 リリアが手をかざすと、淡い光の球が現れた。

 私は急いでセンサーを近づけ、データを記録する。


「どう? 何かわかった?」

「うーん」


 私は眉をひそめながらデータを見つめた。


「マナの波長が、電磁波のある特定の周波数と共鳴しているみたいだ」


 この発見は大きな前進だった。

 もし電磁波でマナを刺激できれば、理論上は魔力を増幅できるはずだ。


 しかし、理論と実践は別物だ。

 最初の試作機は、あえなく失敗に終わった。


「ちぇっ」


 私は思わず舌打ちした。


「なんでうまくいかないんだろう」


 リリアが心配そうに私の肩に手を置いた。


「アヤカ、無理しないで」

「でも」


 私は歯噛みした。


「このままじゃ……」


 そのとき、リリアが静かに言った。


「ねえ、アヤカ。少し休憩しない?」


 私は渋々同意し、二人で部屋の隅に座った。

 リリアがポケットからチョコレートを取り出し、私に半分くれた。


「ありがとう」


 私はそれを口に入れた。

 甘さが広がると、少し気持ちが落ち着いてきた。


「ねえ、アヤカ」


 リリアがふと言った。


「魔法って、感情と深く結びついているの」

「え?」

「うん」


 リリアは続けた。


「例えば、幸せな気持ちのときは、魔法がうまくいきやすいの。逆に、落ち込んでいるときは、なかなかうまくいかない」


 その言葉に、私は何かを閃いた。


「もしかして……それが鍵かも」

「どういうこと?」

「感情が魔力に影響するなら」


 私は興奮して説明した。


「感情を増幅する仕組みを装置に組み込めば……」


 リリアの目が輝いた。


「そっか! それならうまくいくかもしれない」


 新たなアイデアを得て、私たちは再び開発に取り組んだ。

 今度は、脳波を検出し、特定の感情パターンを増幅する回路を組み込んだ。


 そして、ついに完成した試作機を前に、私たちは緊張した面持ちで向き合った。


「準備はいい?」


 私はリリアに尋ねた。


 リリアは深呼吸をして、頷いた。


「ええ」


 スイッチを入れると、装置がかすかに唸りを上げた。

 リリアが手をかざすと、これまでよりもずっと大きな光の球が現れた。


「わぁ……」


 リリアが驚きの声を上げる。


「これ、本当に私の魔力?」


 私も息を呑んだ。

 理論上は予測していたものの、実際に目の当たりにすると、その効果は圧倒的だった。


「すごいよ、リリア!」


 私は思わず声を上げた。


「これなら、もっと大規模な魔法も……」


 しかし、その喜びもつかの間だった。

 突然、装置から火花が散り、リリアが悲鳴を上げた。


「リリア!」


 私は慌てて装置のスイッチを切り、リリアを抱きかかえた。

 彼女は蒼白な顔をしていたが、幸い大きなケガはなさそうだった。


「ごめん……」


 私は申し訳なさそうに言った。


「まだ制御が甘かったみたいだ」


 リリアは弱々しく首を振った。


「いいの、アヤカ。これも大切な一歩よ」


 確かに、彼女の言う通りだった。

 失敗も、重要な情報をもたらしてくれる。


「そうだね」


 私は深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。


「じゃあ、データを分析して、改良を加えよう」


 こうして、私たちは再び開発に没頭した。

 何度も失敗を繰り返しながら、少しずつ装置を改良していく。

 時には徹夜で作業することもあったが、二人で励まし合いながら乗り越えていった。


「ねえ、アヤカ」


 ある日、リリアがふと呟いた。


「この装置が完成したら、本当に世界を救えるのかな」


 私は真剣な表情でリリアを見つめた。


「正直、わからない。でも、これが今の私たちにできる最善のことだと思う」


 リリアはしばらく黙っていたが、やがて静かに頷いた。


「そうね。私たちにしかできないこと」


 その言葉に、私は勇気づけられた。

 そうだ、これは私たちにしかできない挑戦なんだ。


「よし、もう一踏ん張りだ」


 私は気合を入れ直した。


「今度こそ、絶対に成功させよう」


 リリアも力強く頷いた。


「ええ、一緒に頑張りましょう」


 こうして、私たちは再び装置の開発に取り組んだ。

 世界の命運を握るかもしれないこの装置。

 その完成に向けて、私たちの挑戦は続く。

 失敗を恐れず、諦めることなく、二人三脚で前に進んでいく。


 きっと、道は開けるはず。そう信じて。

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