第17話 テクノマジックの新たな可能性

 テクノマジックの研究が進むにつれ、私とリリアは徐々にその本質に迫っていった。

 アルカディアの魔法体系と現代科学の法則を融合させるという、一見不可能に思える試みが、少しずつ形になっていく。


「ねえ、アヤカ」


 ある日、リリアが興奮した様子で私を呼んだ。


「この魔法陣の構造、量子もつれの理論と似てるわ」


 私は彼女が指し示す図を覗き込んだ。

 確かに、その複雑な模様は量子力学の数式を図示したものに酷似していた。


「すごい発見だね、リリア!」


 私も興奮を抑えられない。


「これを基に、新しい理論を構築できるかもしれない」


 私たちは早速、この発見を元に新たな理論の構築に取り掛かった。

 アルカディアの魔法陣を量子力学の観点から解析し、その背後にある原理を探る。

 同時に、マナの流れを電磁波の一種として捉え、その相互作用を数式化していく。


「こうすれば……マナの流れを量子的に制御できるはずだ」


 私が導き出した方程式を見て、リリアの目が輝いた。


「そうね! そうすれば、より安定した魔法の発動が可能になるわ」


 理論の構築は段階的に進んでいった。

 最初の段階では、小規模なマナの制御に成功。

 リリアの指先から放たれる光の玉が、以前よりもはるかに安定し、自在に形を変えられるようになった。


「すごいわ、アヤカ!」


 リリアが歓声を上げる。


「こんなにスムーズに魔法を操れたの、初めて!」


 私も嬉しくなった。


「これも君のおかげだよ、リリア。君の魔法の知識がなければ、ここまで来られなかった」


 第二段階に入ると、私たちは更に大きな挑戦に取り組んだ。

 中規模な環境制御と、簡単な治癒魔法の実現だ。


「理論上は可能なはずだ」


 私は計算結果を示しながら説明した。


「マナの流れを広範囲に渡って制御すれば、局所的な気候操作も可能になる」


 リリアは真剣な表情で頷いた。


「分かったわ。試してみましょう」


 私たちは慎重に実験を開始した。

 リリアが魔法を唱え、私が開発した装置でそれを増幅する。

 すると……


「見て!」


 リリアが指さす先で、小さな雲が形成され始めていた。

 私は息を呑んだ。

 理論が現実となる瞬間を目の当たりにして、科学者としての興奮が胸を躍らせる。


 雲はゆっくりと大きくなり、やがて小さな雨を降らせ始めた。

 前のと違う。雲は瓦解することなく、形を維持し続けている。


「成功だ!」


 私たちは喜びを分かち合った。


 次は治癒魔法だ。

 これは更に慎重を期した。

 人体に直接影響を与える魔法は、危険性も高いからだ。


「アヤカ、ちょっと手を貸して」


 リリアが私の腕を取った。


「小さな傷でいいから、作ってもらえる?」


 私は少し躊躇したが、研究のためと心を決めて、ピンで指先を軽く刺した。

 小さな血の滴が現れる。


「大丈夫?」


 リリアが心配そうに尋ねる。


「うん、問題ない」


 私は頷いた。


「さあ、やってみて」


 リリアは深呼吸をして、私の指に手をかざした。

 彼女の指先から柔らかな光が漏れ出し、私の傷を包み込む。


「あ……」


 驚きの声が漏れた。

 目の前で、傷が徐々に塞がっていく。

 数秒後、傷は完全に消えていた。


「信じられない……」


 私は自分の指を見つめた。


「これが治癒魔法……」


 リリアも驚いた表情を浮かべていた。


「こんなにうまくいくなんて……テクノマジックの力は本当にすごいわ」


 しかし、私たちの喜びもつかの間、思わぬ事態が起こった。


「う……」


 リリアが突然うめき声を上げ、膝をつく。


「リリア! 大丈夫?」


 私は慌てて彼女を支えた。

 リリアの顔は蒼白で、冷や汗を浮かべている。


「大丈夫……ただ、急に体力を使い果たしたみたい……」


 その言葉に、私は愕然とした。

 テクノマジックには、まだ未知の危険性が潜んでいたのだ。


「ごめん、リリア。もっと慎重にならなきゃいけなかった」


 リリアは弱々しく首を振った。


「いいの、アヤカ。これも大切な発見よ」


 確かに、彼女の言う通りだった。

 テクノマジックの限界と副作用を知ることも、研究の重要な一部だ。


「そうだね。これからは、安全面にもっと注意を払おう」


 私たちは、この経験を教訓に研究を続けた。

 テクノマジックの力は確かに大きい。

 しかし、それは同時に大きなリスクも伴う。

 使用者の体力を急激に奪うこともあれば、制御を誤れば周囲に悪影響を及ぼす可能性もある。


「でも、諦めるわけにはいかないわ」


 リリアが力強く言った。


「この力で、きっと世界を救えるはず」


 私も同意した。


「そうだね。だからこそ、もっと研究を重ねて、安全に使える方法を見つけないと」


 こうして、私たちのテクノマジック研究は新たな段階に入った。

 その力の可能性と限界を見極めながら、世界を救う方法を模索する。

 時間との戦いだったが、二人で力を合わせれば、きっと道は開けるはず。


 そう信じて、私たちは研究に没頭し続けた。

 未知の領域に足を踏み入れる不安と、新たな発見への期待が入り混じる中で。

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