第12話 いかにも怪しい人の登場!
私たちのテクノマジック研究が軌道に乗り始めてから、約2週間が経った頃だった。
その日も、いつものように放課後の科学部の部室で、リリアと実験に没頭していた。
「ねえ、アヤカ。この電磁波の周波数を少し上げてみたら?」
リリアの提案に、私は頷いてダイヤルを調整した。
するとたちまち、彼女の指先から放たれる光の玉が大きく膨らみ、より鮮やかな輝きを放ち始めた。
「わぁ、すごい! マナの流れが、今までよりずっと活性化されてる!」
リリアの目が輝いた。
私も思わず息を呑んだ。
これまでの実験の中で、最も大きな成果だった。
「これって、もしかしたら……」
私の言葉を遮るように、リリアが興奮気味に続けた。
「アヤカ、これならもっと大きなことができるかもしれないわ!」
その言葉に、私は少し躊躇した。
確かに、テクノマジックの可能性は無限大だ。
でも、それを大規模に使うことへの不安も同時に感じていた。
「うん、でも慎重にやらないとね。予期せぬ副作用があるかもしれないし」
私の慎重な態度に、リリアは少し不満そうな顔をした。
しかし、すぐに理解を示すように頷いた。
「そうね。アヤカの言う通りよ。でも、この発見は本当にすごいわ!」
私たちは興奮冷めやらぬまま、その日の実験データをまとめ始めた。
窓の外では、夕日が赤々と空を染めていた。
そんな中、突然部室のドアがノックされた。
「はい?」
私が声をかけると、ドアがゆっくりと開いた。
そこに立っていたのは、見知らぬ中年の男性だった。
スーツ姿で、どこか威圧感のある雰囲気を醸し出している。
「失礼します。佐藤アヤカさんとリリアさんでしょうか」
その男性は、にこやかな笑顔を浮かべながら部室に入ってきた。
私は思わずリリアと顔を見合わせた。
私たちの名前を知っているということは……。
「あの、どちら様でしょうか?」
私が尋ねると、男性は丁寧にお辞儀をした。
「申し遅れました。私は虚空議会のタカハシと申します」
虚空議会? 聞いたことのない名前だった。
しかし、その言葉を聞いた瞬間、リリアが身を強張らせるのが分かった。
「虚空議会……ですか」
リリアの声が、少し震えていた。
その反応に、私は不安を覚えた。
「ええ、そうです。お二人のテクノマジックの研究に、大変興味を持っております」
タカハシと名乗る男性の言葉に、私は驚きを隠せなかった。
「え? でも、私たちの研究のことは誰にも……」
「ご心配なく」
タカハシは穏やかな声で言った。
「我々は、両世界の存在を古くから知る者たちです。そして、お二人の素晴らしい発見にも注目しているのです」
両世界の存在? その言葉に、私の頭の中で警報が鳴り響いた。
この男性は、リリアが別の世界から来たことを知っているのだ。
「アヤカ……」
リリアが私の袖を引っ張った。
彼女の表情には、明らかな警戒心が浮かんでいた。
「タカハシさん」
私は冷静を装いながら言った。
「私たちの研究のことを、どうやってお知りになったのですか?」
タカハシは、まるで子供をあやすかのような優しい笑みを浮かべた。
「我々には、様々な情報網があります。特に、両世界にまたがる異変には敏感でね」
その言葉に、私は背筋が凍る思いがした。
私たちの研究が、こんなにも早く外部に知られてしまうなんて。
「で、何のご用件でしょうか?」
リリアが、珍しく強い口調で尋ねた。
「ああ、そうでしたね」
タカハシは懐から名刺を取り出した。
「我々虚空議会は、お二人の研究に大変興味があります。ぜひ、協力関係を結ばせていただきたいのです」
私は、差し出された名刺を恐る恐る受け取った。
そこには「虚空議会 特別研究部門」という肩書きと、タカハシの名前が刻まれていた。
「協力……ですか?」
「はい。お二人の研究は、両世界の秩序維持に大きく貢献する可能性があります。我々は、その研究をさらに発展させるための支援を惜しみません」
タカハシの言葉は魅力的に聞こえた。
しかし、どこか引っかかるものがあった。
「秩序維持……とおっしゃいましたが、具体的にはどういうことでしょうか?」
私の質問に、タカハシは少し考え込むような素振りを見せた。
「そうですね。例えば、両世界の均衡を保つこと。あるいは、危険な力が悪用されないよう監視すること。そういったことです」
その説明を聞きながら、私は違和感を覚えずにはいられなかった。
タカハシの言葉の端々に、何か隠された意図を感じたのだ。
「リリア、どう思う?」
私がリリアに目を向けると、彼女は明らかに困惑した表情を浮かべていた。
「アヤカ……私、この組織のことを聞いたことがあるわ。アルカディアでは、あまり良くない噂があって……」
リリアの言葉に、タカハシの表情が一瞬曇った。
しかし、すぐに穏やかな笑顔を取り戻した。
「ああ、そうですか。確かに、誤解を招くような噂もあるかもしれません。しかし、我々の目的は純粋なものです。両世界の平和と安定のために」
タカハシの言葉は説得力があった。
しかし、私の心の中の違和感は消えなかった。
「少し、考えさせていただけませんか?」
私がそう言うと、タカハシは理解を示すように頷いた。
「もちろんです。急がせるつもりはありません。ゆっくりお考えください」
そう言って、タカハシは部室を後にした。
彼が去った後、私とリリアは顔を見合わせた。
「アヤカ、あの人たち、信用できないわ」
リリアの声には、明らかな不安が滲んでいた。
「うん、私もなんだか変な感じがした。でも、どうして?」
「アルカディアでは、虚空議会という名前は、闇の組織の代名詞みたいなものなの。秩序維持を名目に、実は世界の支配を企てているって噂があるわ」
リリアの言葉に、私は息を呑んだ。
世界の支配? そんな大それたことを、本当に企んでいるのだろうか。
「でも、なんでテクノマジックに興味があるんだろう?」
私の問いに、リリアは真剣な表情で答えた。
「それは……きっと、テクノマジックの力を利用したいからよ。科学と魔法の融合は、想像を超える力を生み出す可能性がある。そんな力があれば……」
「世界を支配することも不可能じゃない、ってこと?」
リリアは重々しく頷いた。
「そうよ。だから、私たち、気をつけないと」
その言葉に、私は深い憂慮を覚えた。
テクノマジックの研究は、私たちにとってただの興味深い発見だった。
しかし、それが世界の命運を左右するほどの力を秘めているとしたら……。
「リリア、これからどうする?」
「今のところは、慎重に様子を見るしかないわ。でも、絶対に虚空議会には協力しないって決めておきましょう」
私は頷いた。
しかし、心の中では不安が渦巻いていた。
虚空議会は、これからも私たちに接触してくるだろう。
そして、彼らがテクノマジックの力を手に入れようと本気で動き出したら……。
窓の外では、すっかり日が沈み、夜の帳が降りていた。
私たちの前に、新たな試練が立ちはだかろうとしていることを、その暗闇が象徴しているかのようだった。
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