第9話 千里の道も一歩から、魔法の道は制御から

 テクノマジックの発見から数日が経ち、私とリリアは本格的な研究を開始した。

 科学部の部室は、私たちの秘密の研究所と化していた。


「じゃあ、今日はテクノマジックの制御性について調べてみよう」


 私が提案すると、リリアは少し困ったような顔をした。


「制御性って……魔法は感覚で操るものだと思うんだけど」


 その言葉に、私は少し戸惑った。

 科学者として、現象を数値化し、制御することは当然のことだと思っていたから。


「でも、制御できないと危険じゃない? 例えば、さっきの天候操作。雨を降らせるつもりが、洪水を起こしちゃったら大変でしょ」


 リリアは少し考え込んだ後、ゆっくりと頷いた。


「確かに……でも、魔法には魔法使いの意志が強く影響するの。数値だけでは表せない部分があるわ」


 私たちは、そこから長い議論を始めた。

 科学的アプローチを重視する私と、魔法の本質を大切にしたいリリア。

 意見がぶつかり合う場面も多々あった。


「でも、アヤカ。魔法の美しさや神秘性を失ってしまうんじゃないかしら」


 リリアの言葉に、私は少し考え込んだ。

 確かに、全てを数値化し、制御しようとすることで、魔法の本質を見失う可能性はある。


「分かったよ、リリア。じゃあ、こうしよう。数値化できる部分と、魔法使いの感覚に頼る部分を分けて研究してみるのはどうかな」


 その提案に、リリアの顔が明るくなった。


「それなら素晴らしいアイデアね!」


 こうして、私たちは互いの視点を尊重しながら、研究を進めていった。


 テクノマジックの応用範囲は、私たちの想像を超えて広がっていった。

 小さな物体の操作から始まり、より複雑な現象の制御にも挑戦した。


「ねえ、アヤカ。テクノマジックで病気を治せないかしら」


 ある日、リリアがそう提案した。


「それって……」


 私は少し躊躇した。

 医療への応用は魅力的だが、同時に大きなリスクも伴う。


「でも、人体に使うのは危険かもしれない。まだ解明されていない部分が多すぎるよ」


 リリアは少し落胆したように見えたが、すぐに別のアイデアを出してきた。


「じゃあ、植物の成長を促進するのはどうかしら」


 その提案には、私も興味を示した。


「それなら、比較的安全に実験できそうだね」


 こうして、私たちは植物の成長促進実験を始めた。

 電磁波で植物の細胞を活性化し、リリアの魔法でその効果を増幅する。


 実験は成功し、驚くべき速さで植物が成長した。

 しかし、同時に新たな問題も浮上した。


「リリア、この植物……少し異常じゃない?」


 急成長した植物は、通常とは違う形状になっていた。


「確かに……でも、これも自然の一つの形なのかもしれないわ」


 リリアの言葉に、私は首を傾げた。


「でも、自然の摂理を無視して、こんな急激な変化を起こしていいの?」


 ここでも、私たちの価値観の違いが浮き彫りになった。

 科学的な倫理観と、魔法使いとしての直感。

 私たちは再び、長い議論を交わすことになった。


「人間が自然に介入することの是非……難しい問題ね」


 リリアの言葉に、私も深く頷いた。


「うん、でもだからこそ、私たちがしっかり研究して、正しい使い方を見つけなきゃいけないんだと思う」


 こうした衝突と議論を繰り返しながらも、私たちの研究は着実に進んでいった。

 時には意見が対立し、険悪な雰囲気になることもあった。

 しかし、そのたびに互いの考えを理解しようと努め、折り合いをつけていった。


「ねえ、アヤカ。私たち、だいぶ良いコンビになってきたと思わない?」


 ある日、リリアがそう言ってきた。


「そうだね。最初はぶつかることも多かったけど、今では……」


「お互いの長所を生かせるようになったわ」


 私たちは顔を見合わせて笑った。

 確かに、科学と魔法という異なる背景を持つ私たちだからこそ、テクノマジックの研究がここまで進んだのかもしれない。


「これからも、いろんな壁にぶつかると思う。でも、一緒なら乗り越えられるよ」


 私の言葉に、リリアは頷いた。


「ええ、そうね。私たちの力を合わせれば、きっと素晴らしい未来が作れるわ」


 テクノマジックの研究は、私たちに多くの挑戦をもたらした。

 しかし同時に、それは私たちの絆を深め、新たな可能性を開く扉となった。

 これからも、科学と魔法の融合が生み出す奇跡に、私たちは挑戦し続けるだろう。

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