第8話 テクノマジックの誕生!

 リリアが日本の生活に慣れ始めた頃、私たちは思いがけない発見をすることになった。

 それは、科学と魔法が融合する瞬間だった。


 その日、私たちは科学部の部室で実験をしていた。

 リリアも科学に興味を持ち始め、よく私に付き合ってくれるようになっていた。


「アヤカ、これは何をする実験なの?」


 リリアが覗き込んでいたのは、電磁波の共鳴現象を観察する装置だった。


「これはね、電磁波の共鳴を調べる実験なんだ。簡単に言えば、波長が合うと振動が大きくなる現象を見るんだよ」


 リリアは首を傾げた。


「波長? 振動?」


「うーん、そうだな……」


 私は説明の仕方を考えた。


「リリア、魔法を使うときって、何か特別な感覚はある?」


 リリアは少し考え込んだ後、答えた。


「そうね……マナの流れを感じるの。それに乗せるように、自分の意志を込めるような感じかしら」


「なるほど。その『マナの流れ』っていうのは、波のようなものかな?」


 リリアの目が輝いた。


「そう言われてみれば、確かに波みたいね。上下に揺れているような……」


「それなら分かりやすいかも。この実験は、その波が互いに影響し合って大きくなる様子を見るんだ」


 説明しながら、私は装置のスイッチを入れた。

 するとモニターに、波形が表示される。


「ほら、こんな感じで……」


 その瞬間だった。

 リリアが何気なく装置に触れると、モニターの波形が激しく乱れ始めた。


「あれ? どうしたんだろう」


 私が不思議に思っていると、リリアが驚いた声を上げた。


「アヤカ、見て! 私の手から光が……」


 リリアの指先から、かすかな光が漏れ出ていた。

 それは彼女が魔法を使うときの光とよく似ていたが、何か違う。

 より鮮やかで、脈動しているように見える。


「すっごい。これ、どういうこと?」


 リリアも困惑した様子だった。


「分からない……でも、なんだかマナの流れが激しくなっているの」


 私は急いで測定器を持ってきた。


「ちょっと計測してみていい?」


 リリアが頷くと、私は彼女の手から漏れる光を測定器にかざした。

 すると、信じられない数値が表示された。


「これは……電磁波? でも、通常より、ありえないほど強い……」


 私とリリアは顔を見合わせた。

 何か大変なことが起きているのは分かったが、それが何なのかは見当もつかない。


「リリア、もう一度魔法を使ってみて。でも今度は、この装置に向けて」


 リリアは少し躊躇したが、私の言う通りにした。

 彼女が手をかざすと、装置が突如として激しく振動し始めた。


「うわっ!」


 驚いて後ずさりする私たち。

 しかし、その振動は徐々に収まり、代わりに装置全体が淡い光に包まれた。


「これって……」


「まるで魔法の光ね」


 私たちは息を呑んだ。

 目の前で起きている現象は、明らかに科学の領域を超えていた。

 しかし、同時に純粋な魔法でもない。


「アヤカ、これ、どういうことなの?」


 リリアの問いに、私は頭を抱えた。


「正直、よく分からない。でも……」


 私は急いでノートを取り出し、計算を始めた。


「もしかしたら、電磁波とマナが共鳴しているのかも。リリア、マナって目に見えないんだよね?」


「ええ、そうよ。でも魔法使いには感じ取れるわ」


「じゃあ、ひょっとしたらマナも一種の波なのかも。そして、その波が電磁波と同調して……」


 私の頭の中で、様々な理論が駆け巡る。

 量子力学、波動方程式、共鳴現象……。

 そして、それらとリリアの魔法の原理を結びつけようと必死に考えた。


「ねえ、アヤカ。もしかして、これって新しい魔法?」


 リリアの言葉に、私はハッとした。


「新しい魔法……いや、違う。これは魔法でも科学でもない。これは……」


「テクノマジック」


 私とリリアが同時に言った。

 その瞬間、私たちは興奮で顔を見合わせた。


「そうよ、テクノマジック! 科学と魔法の融合ね」


 リリアの目が輝いていた。


「にゃはは……すごい発見をしちゃったみたいだね、私たち」


 私もわくわくしていた。

 これは間違いなく、新しい領域の幕開けだ。


 それからの数日間、私たちはテクノマジックの研究に没頭した。

 理論を構築し、実験を重ね、少しずつその性質を明らかにしていく。


 テクノマジックの原理は、魔法のマナと電磁波の共鳴現象だった。

 マナが電磁波と共鳴することで、その力が増幅される。

 そして、増幅されたマナは、現実世界により大きな影響を与えることができる。


「つまり、魔法の力を科学の力で増幅できるってことね」


 リリアが興奮気味に言った。


「そうみたい。でも、逆に言えば科学の力を魔法で制御できるってことでもある」


 私たちは、テクノマジックの可能性に胸を躍らせた。


 初期の応用例として、まず小規模な物体の操作に成功した。


「ほら、見て!」


 リリアが手をかざすと、机の上のペンが宙に浮かび上がった。


「すごい! 念力みたいだね」


「違うわ、これはテクノマジックよ」


 リリアが得意げに言った。

 確かに、彼女の指先から漏れる光は、通常の魔法とは違う輝きを放っていた。


「でも、どうしてペンが浮くの?」


「簡単よ。電磁波でペンの周りの空気を振動させて、その振動をマナで制御しているの」


 その説明を聞いて、私は感心した。

 科学と魔法の原理が、見事に融合している。


 次に私たちが挑戦したのは、天候の制御だった。


「小さな範囲なら、雨を降らせることができるかもしれない」


 私が提案すると、リリアは少し不安そうな顔をした。


「大丈夫かしら? 自然を操るのは、結構難しいのよ」


「大丈夫だよ。ほら、こうやって……」


 私は簡単な装置を組み立てた。

 それは、大気中の水分を集める装置だ。


「この装置で水分を集めて、それをリリアの魔法で雲に変える。そして、電磁波で雲を刺激すれば……」


 リリアは頷いた。


「分かったわ。やってみましょう」


 私たちは校庭に出て、実験を開始した。

 リリアが魔法を唱え、私が装置を操作する。

 すると、空に小さな雲が形成され始めた。


「出来た!」


 私たちは興奮して叫んだ。

 そして次の瞬間、その小さな雲から雨粒が落ち始めた。


「わぁ、本当に雨が降ってきた」


 リリアが嬉しそうに手を広げる。

 その姿を見て、私は科学と魔法の融合がもたらす可能性に、改めて心を躍らせる。

 その雨は、雲が瓦解したことで一瞬にして終わってしまったけど、進歩ありだ。


「ねえ、アヤカ。このテクノマジック、もっといろんなことに使えるんじゃないかしら」


 リリアの言葉に、私も頷いた。


「うん、きっとそうだよ。でも、慎重に研究を進めないとね。この力は、使い方を間違えると危険かもしれないから」


 リリアも真剣な表情で頷いた。


「そうね。私たちの責任は重大よ」


 その日以来、私たちのテクノマジック研究は本格化した。

 科学と魔法の融合は、私たちの想像を超える可能性を秘めていた。

 しかし同時に、その力の大きさゆえの危険性も感じていた。


 これから私たちは、テクノマジックの可能性と限界を探っていくことになる。

 そして、その過程で、きっと今まで誰も見たことのない世界が広がっているはずだ。

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