第4話 別の世界、少女の驚き

 まばゆい光に包まれた瞬間、私の体が宙に浮いたような感覚に襲われた。

 目を閉じていても、まぶたの裏側で光が踊っている。

 そして、突然の落下感。


「きゃっ!」


 思わず声を上げたその瞬間、私の体は何かに激突していた。


「いたた……」


 目を開けると、そこはもう魔法学園の講堂ではなかった。

 天井に蛍光灯らしきものが並んでいる。

 周りには見慣れない道具や機械が並んでいる。

 そして、目の前には……。


「うわっ!」


 黒髪の少女が、大きな目を見開いて私を見つめていた。

 彼女は私と同じくらいの年頃に見える。

 でも、その服装は明らかに私たちの世界のものとは違う。


「あの……あなたは……」


 私が声をかけようとした瞬間、少女は慌てて後ずさりした。


「き、きみは誰!? どうやってここに!?」


 彼女の声は震えていた。

 当然だろう。

 突然見知らぬ人間が目の前に現れたのだから。


「私は……リリアっていうの。あの、ここはどこ?」


 周りを見回しながら尋ねる。

 するとその少女は、さらに驚いた表情を浮かべた。


「ど、どこって……ここは科学部の実験室だよ。君、いったいどっから来たの?」


 科学部? 実験室? 聞いたことのない言葉に、私は首を傾げた。


「私はアルカディアから来たんだけど……」


 その言葉に、少女の表情がさらに混乱する。


「アルカディア? そんな国、聞いたことないよ。それに……」


 彼女は私の全身を見回して、言葉を詰まらせた。


「その服装……コスプレ?」


 コスプレ? また聞いたことのない言葉だ。

 何かの呪いの言葉だろうか。

 私は自分の服を見下ろした。

 由緒正しき魔法学園の制服だ。

 確かに、この少女の服装とは全く違う。


「あの、ごめんなさい。あなたのお名前は?」


「え? あ、私は佐藤アヤカ。でも、どうして日本語がわかるの?」


 日本語? そう言えば、確かに彼女の言葉は少し聞き慣れない響きがする。

 でも、不思議と意味は理解できる。

 ○○言、という単語には、地名が付くのが大抵の場合だ。

 つまり、ここは……。


「ここは日本、という場所なの?」


 私の質問に、アヤカはますます困惑した様子で頷いた。


「うん、ここは日本だよ。君、本当に大丈夫? 頭でも打った?」


 私は周りをもう一度見回した。

 棚には見たこともない器具が並んでいる。

 机の上には複雑な機械が置かれている。

 そして窓の外には、高層ビルが立ち並ぶ街並みが見える。


 これは間違いなく、私の知っている世界ではない。


「アヤカさん、私、どうやらとんでもない所に来てしまったみたい」


 私の言葉に、アヤカは眉をひそめた。


「どういうこと?」


「信じてもらえないかもしれないけど……私、別の世界から来たの」


 その瞬間、アヤカの目が大きく見開かれた。


「え!? 別の世界? そんなの……」


 彼女は言葉を詰まらせた。そして、突然思い出したように何かを言いかけた。


「そ、そういえば、さっきまで私、不思議な現象を観察してたんだ。空間がゆがんで……」


 アヤカの言葉に、私は身を乗り出した。


「空間のゆがみ? それって、私が来た時のこと?」


 アヤカは頷いた。


「うん、突然空間がゆがんで、そしたら君が現れて…」


 私たちは互いの顔を見つめ合った。

 二人とも、状況が飲み込めていない。


「じゃあ、本当に君は……別の世界から?」


 アヤカの声は、半信半疑だった。

 私も自分の置かれた状況が完全には理解できていない。


「そうみたい。私の世界では、魔法を使うのが当たり前なの。でも、ここには魔法がないみたいね」


「魔法!?」


 アヤカの声が裏返った。


「そんな……魔法なんて、ファンタジーの世界の話でしょ?」


 私は苦笑した。


「私の世界では、魔法は日常的なものよ。でも、ここにはないのね」


 アヤカは頭を抱えた。


「ちょ、ちょっと待って。これは夢か何かじゃない? 私、寝ちゃってるとか……」


 彼女は自分の頬をつねった。


「いっった! じゃあ、夢じゃない?」


 私たちは再び見つめ合った。

 二人とも、この状況をどう受け止めればいいのか分からない。

 アヤカの目には戸惑いと好奇心が混ざっているのが見える。

 私も同じだろう。


 異世界から来た魔法使い。

 科学の世界に生きる少女。

 私たちは互いの存在に困惑し、言葉を失った。

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