王統暦2215年4月13日 前文・お着替え
さて……皆様、あらすじはお読みいただけましたでしょうか。我らが主神、アルバ様のお言葉なのですが、まぁ色々とお下手なご説明でしたね。しかし、例えそうであったとしても、アルバ様のお言葉というだけで我らにとっては敬愛すべきものとなります。故に、私はそれを幾度も拝読したわけです。
その紹介文が私の日記帳に現れたのは、シュリ様がご誕生なされた際でした。その日の夜、シュリ様のお世話を先輩に委ねて、私は交代に備え仮眠をとることにし、睡眠前の習慣である日記をつけようと思いました。しかし開いて見れば、当日の日付の所に先程の文言があったのです。
私はすぐに、これはアルバ様のご天啓だと確信致しました。シュリ様が産声を上げた後、すぐに泣き止んでしまわれたのも、二度目の生であられるからだと分かりました。そして、三日目にはお立ちになられて部屋を抜け出され、3か月で言葉をおしゃべりになり、3歳で既に初等教育を解されたことも疑問に思うことはありませんでした。
ユーリス様もまたそんなシュリ様を導こうと、或いは追いつこうと必死に努力され、私も少しばかりお手伝い差し上げました。今では二人とも、立派に育たれています。そしてシュリ様が15歳になられた今日の朝、再び日記帳の昨日のページに先のあらすじがお見えになりました。このご天啓は、今日から新たな聖典が刻まれるということだと解釈させて頂き、私は執筆を始めます。お二人とその周囲を、余すことなく残すことこそが、我が使命でありましょうから。
……おっと、申し訳ありません。日記の前に一つ。ここでは、私が起床後すぐに書く前文、就寝前に書く後文、そして日中時々で記録する本文の三部構成とさせて頂きます。
また、自分は多少の識字が出来る程度の語彙力しか持ち合わせておりませんので、諸所に稚拙な文が見受けられるかと思いますが、その旨ご承知下されば幸いでございます。では、参りましょう。
「ね~だるいよ~」
シュリ様は服をお着せられになりながら、そのようなお戯れを仰ります。
「シュリ様。」
私が叱る様に申し上げれば、「うぇ~」と仰られんとするお顔で渋々とドレスにお袖を通されました。
「ほら、大変麗しいですよ、『殿下』。」
『殿下』、という敬称でシュリ様を御呼びするのは今日が初めてです。我が国フィーシアでは、男女共に15歳を成人年齢と定め、王族に関しては成人から正式に爵位を賜ることになるのです。
本日はシア様のご成人の儀と、爵位授与式、ご生誕祭が同時に催される、極めて忙しい日となっております。
私もこうして右手だけでシュリ様のお着替えを手伝わせて頂いております。左手は日記を書くのに忙しいです。
「……そうだねぇ~」
シュリ様は、眼前の姿見を見られて、悪そうなみ笑みをお浮かべになっていました。恐らくは、またガル様にちょっかいをかけてやろうとお思いなのでしょう。
アルバ様のお言葉にもございましたが、シュリ様はガル様の事がお好きなようなのです。生来より臣下とディー様、つまりお母君であるバンデル様のたっての希望で女性に近しい社会的性を目指すご教育を受けられてこられたシュリ様は、前世も相まってかっこかわいいものに目が無いのです。
そんなシュリ様が周囲の奇異の目に晒されないよう、自身も女装しているガル様。そんな可愛らしくも忠君的なガル様の様相は、格好良くも所々に華麗さが見受けられますから、シュリ様が恋焦がれるのもまた当然のことなのでしょう。むしろそのためにアルバ様がこのお二人をお引き合わせになられたのでしょう。
「あまりふざけられないで下さいね?」
一応、そういうこともあるのですが、今日は非常に荘厳な式典が多くあります。私は無論シュリ様のお幸せを何よりも第一に思っておりますが、そのためには儀礼を通して頂かねばならない時もあるのです。
「分かってるよ。誕生日パーティーまでは、ね?」
どうやら、誕生日パーティーでははっちゃけるからその旨宜しく、ということのようです。私は露骨にため息を吐いて、而して「畏まりました。」と承知の意を申し上げました。
白夜月と明星 鹿 @HerrHirsch
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