第13話 逆転の一手
藤崎は身を低くし、廃工場の古びた機械の陰に隠れたまま、すぐに状況を分析した。男は銃を持っている。正面から対峙すれば、勝ち目はない。だが、この廃工場にはまだ使える物陰や廃材が多く存在していた。それらをうまく利用すれば、反撃のチャンスがあるかもしれない。
「橘、大丈夫か?」藤崎は小声で橘の安否を確認した。
「うん……でも、このままじゃ危ない。」橘も必死に身を隠しながら答えた。
藤崎は一瞬で作戦を考えた。まず、工場内のどこに男がいるのか、動きやパターンを見極める必要がある。男は今、ゆっくりと周囲を警戒しながら、二人を見つけ出そうとしているはずだ。銃声が再び響くまでに、できるだけ男の動きを把握しなければならない。
藤崎は機械の影からこっそりと顔を出し、男の位置を確認した。男は彼らの潜んでいる場所から少し距離を置いて、慎重に歩を進めている。男の足元はしっかりとした一歩一歩を踏みしめており、軽率な動きはしない。それでも、男は二人を探している間に隙を見せる瞬間があるかもしれない。
藤崎の脳裏には、今までの事件の流れと、目の前の状況がぐるぐると交差していた。男は理事長の命令でここに来たのか?それとも、理事長を裏切って別の目的を持って動いているのか?彼の動機は何だ?
その時、藤崎の頭の中である仮説が浮かんだ――理事長が本当にこの陰謀の首謀者だとしたら、こんな危険な現場に部下を送り込むだろうか?それとも、この男はもっと別の組織から送り込まれた者なのか?
藤崎は考えを巡らせる中、ふと手元に転がっていた廃材の鉄パイプに目を留めた。彼は瞬時にそれを手に取り、じっと機会を待った。男が近づきすぎる前に、何とか先手を打つしかない。藤崎の指は緊張で固くなりながらも、鉄パイプをしっかりと握りしめた。
「藤崎……どうするの?」橘が震える声で尋ねた。
「僕が合図を出したら、反対側に逃げてくれ。僕が男の注意を引くから、その間に。」藤崎は低く囁いた。
「でも……危ないよ!」橘がためらいを見せる。
「大丈夫。必ずチャンスがある。」藤崎は確信を込めて答えた。
男の足音が少しずつ近づいてくる。銃口がどこに向けられているか分からないが、藤崎はその瞬間を見逃さないつもりだった。そして、ついに男が機械の近くに差し掛かると、藤崎は機を見て鉄パイプを投げた。
「今だ、橘!」
鉄パイプが男の足元に転がり、その音に男は一瞬、銃口をそちらに向けた。藤崎はその隙を突いて、素早く別の機械の裏に身を移した。橘もそのタイミングで反対側に走り抜けた。
銃声が再び響き渡った。男は完全に混乱しており、藤崎たちの正確な位置を把握できていない。
「お前たち、どこにいる!」男は焦りと苛立ちをあらわにしながら叫んだ。
藤崎はその声を聞きながら、次の一手を考えていた。この状況では、時間稼ぎをしながら男の動きをさらに封じるしかない。藤崎はその場にあった小さなボルトやネジを拾い上げ、それをまた別の方向に投げた。
カラン、カラン――鉄の音が響き、男は再びその方向に注意を向けた。
その隙に、藤崎は男の背後へと近づき、一気に体当たりを仕掛けた。男は驚き、銃を持った手が乱れる。その瞬間、藤崎は男の腕にしがみつき、銃を奪い取ろうとした。
「くそっ、放せ!」男は力強く藤崎を振り払おうとするが、藤崎は必死で抵抗した。
「橘、今だ!」藤崎は叫び、橘が背後から男の腕を掴んだ。二人がかりで男を抑え込もうとする中、男の銃は床に落ち、音を立てた。
藤崎はその音を聞くと同時に、すぐに男を床に押さえつけた。「お前は一体誰だ?理事長の命令か、それとも……」
しかし、男は笑みを浮かべながら答えた。「理事長?あんな男はただの駒に過ぎないよ……」
その言葉に、藤崎の全身に寒気が走った。「どういうことだ?」
男は藤崎の腕を振りほどき、冷静に立ち上がった。「君たちは何も知らないんだな。この事件の本当の首謀者が誰か、君はまだ気づいていない。」
その瞬間、藤崎の頭の中で何かが弾けた。全てが繋がった――事件の裏に隠された本当の計画。それは学園内部の不正ではなく、もっと大きな力が働いていた。理事長は操り人形に過ぎず、もっと影響力を持つ何者かが、すべての裏で糸を引いていたのだ。
「まさか……」藤崎は目の前の男を見据えた。「君がその黒幕だというのか?」
「そうさ。君が気づいたことを喜ぶべきか、あるいは悲しむべきか……さて、君たちにはもう時間がない。」男はポケットから小型のリモコンを取り出し、指をスイッチにかけた。
「爆発装置か……」藤崎は即座に察した。
「その通りだ。この工場は君たちごと消し去るつもりだ。さよならだ、藤崎翔。」男はスイッチを押そうとした。
「ダメだ!」藤崎は必死で男に飛びかかろうとしたが、男の指がスイッチに触れたその瞬間、突然、工場内に強烈な光が差し込んだ。外からのヘリコプターのサーチライトだ。
「止まれ!」警察の声が響き渡った。
男は驚き、スイッチを押すのをためらった。その隙を突いて、警察の特殊部隊が突入し、男を取り押さえた。
藤崎は息を切らしながら、倒れ込んだ。「……助かった……」
橘は泣きそうな顔で藤崎に駆け寄り、彼を抱きしめた。「もう、大丈夫……?」
「……まだ終わってない。事件の黒幕はこいつじゃない……もっと大きなものが潜んでいる……」藤崎はそう言いながら、男が捕らえられていくのを見つめていた。
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読者様向けメッセージ
「藤崎と橘は廃工場内で犯人に立ち向かい、ついに犯人を追い詰めることに成功します。しかし、犯人は最後の言葉で、理事長はただの駒であり、事件の背後にはもっと大きな勢力が隠れていることを示唆します。工場を消し去る爆発の危機も、警察の介入によって回避されましたが、事件の真の黒幕はまだ明らかになっていません。藤崎の推理は、次なるステージへと進んでいきます。」
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選択肢
1. 理事長を追求し、事件の真相にさらに迫る。
2. 警察と協力して、黒幕の存在を明らかにするため捜査を続ける。
3. 橘と共に一旦休息し、情報を整理してから次の一手を考える。
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