第8話 嵐の夜に

藤崎は、遠山刑事の冷静で厳しい目を見つめた。そして、自らの中での葛藤を抑え、決断した。警察に任せることが最善の方法だと判断したのだ。彼は橘美咲に目を向け、わずかにうなずいた。橘も緊張した面持ちで同意の意を示した。


「わかりました、遠山刑事。僕たちは警察の指示に従います。」藤崎は静かに答えた。


遠山刑事は、わずかに表情を緩めてうなずいた。「君たちの協力に感謝する。だが、この件は非常に危険だ。今夜は絶対に外に出ないでくれ。私たちが必ずこの事件の真相を突き止める。」


藤崎と橘は警察署を後にした。外に出ると、すでに日は落ち、薄暗い雲が空を覆っていた。雨の予感が漂い、冷たい風が吹きつけてくる。二人はしばらく無言のまま歩き続けた。藤崎は、これで本当にいいのかという疑念を心の中で反芻していたが、今は警察の動きを見守るしかないと自分に言い聞かせた。


「翔……これでよかったのかな?」橘が口を開いた。


「……そうするしかない。警察に任せるのが最善だ。」藤崎は自分の言葉に力を込めたが、その言葉はどこか虚ろに響いた。


二人はそれぞれの家に戻り、夜の帳が下りるのを待った。藤崎は自室の窓から外の様子をうかがい、次第に強まる風と、遠くで響く雷鳴に耳を傾けていた。23時が近づくにつれて、不安と緊張が増していく。


そして、ついにその時がやってきた。時計の針が23時を指し、藤崎は窓から外を見た。雨が降り始め、嵐のような風が木々を揺らしている。遠山刑事たちは今、どこで何をしているのだろうか――藤崎は胸の奥で、何かが締め付けられるような感覚を覚えた。


突然、藤崎のスマートフォンが震えた。画面を見ると、橘美咲からのメッセージが届いていた。


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「翔、何かおかしい……警察の動きが全く報道されてない。何か、異変が起きてるのかも。」


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そのメッセージを見た瞬間、藤崎の胸に冷たいものが走った。彼はすぐにテレビをつけ、ニュースを確認した。しかし、学園周辺での動きや、今夜の警察の動向に関する報道は一切なかった。まるで、何も起こっていないかのように、画面には平穏なニュースが流れていた。


藤崎は焦燥感に駆られ、何度もリモコンのボタンを押して各チャンネルを巡ったが、どの局もこの町の状況について報じていない。まるで、23時の取引が無かったことにされているかのようだった。


「どういうことだ……」藤崎は独りごちた。警察はあれほど警戒していたはずだ。それが今、何の情報も伝えられていない。この沈黙は一体何を意味するのか。


その時、スマートフォンが再び震えた。橘からの着信だ。藤崎は急いで電話に出た。


「翔、警察署に連絡してみたんだけど……誰も出ないの。」橘の声はかすかに震えていた。「警察署自体が、閉ざされているみたい……。」


藤崎は息を呑んだ。警察署が閉ざされている?そんなことがあり得るのか。彼はすぐに遠山刑事の携帯に電話をかけた。しかし、応答はない。何度か試みるが、通話は繋がらず、ただの無音だけが返ってくる。


「警察が、どうにかなった……?」藤崎の頭の中で様々な疑念が渦巻いた。遠山刑事たちに何かが起こったのか。それとも――何か、もっと大きな力が働いているのか?


藤崎の心は次第に激しく脈打ち始めた。警察が動いたはずの今夜、何も報じられず、警察署が沈黙している。このままでは、亮の事件も、そして彼らが追っていた『23時の取引』も、闇の中に消えてしまうかもしれない。


雨が激しさを増し、雷鳴が響き渡る。藤崎は窓の外を見つめ、決断を迫られていた。警察に任せるのが最善だと思っていたが、事態は自分の想像を超えて動いているようだ。このまま何もしなければ、亮の真相は永遠に闇の中だ。


「橘、もう一度、現場に行く。」藤崎は決意を固め、スマートフォンに向かって言った。


「でも、翔……警察が動いてるのに……」橘の声は不安げだったが、藤崎の決意が伝わったのか、彼女もすぐに声を抑えて言った。「わかった。一緒に行くわ。」


嵐の中、藤崎はコートを羽織り、家を飛び出した。冷たい雨が顔を打ちつけ、風が容赦なく吹き付けてくる。彼は橘と合流し、学園に向かって走り出した。


しかし、二人が学園の裏手にたどり着くと、そこには信じがたい光景が広がっていた。倉庫の周りには警察の車が一台もなく、ただ静寂だけが漂っていた。遠山刑事たちがいた形跡すら見当たらない。


「まさか……」橘が呆然とつぶやいた。


その時、藤崎は倉庫の扉がわずかに開いているのに気づいた。彼は警戒しながらゆっくりと近づき、中を覗き込んだ。そして――


倉庫の中には、先ほど警察署で見た遠山刑事の姿が、意識を失ったまま倒れていた。その周りには、他の警察官たちも倒れている。現場は混乱の痕跡で満ちていた。


「遠山さん……!」藤崎は声をかけたが、反応はない。彼らは一体何者かに襲われたのか?


藤崎はその場で立ちすくんだ。誰が、何のために警察を襲撃したのか。そして、今夜の23時に一体何が起こったのか――すべてが霧の中に消えていくような感覚に襲われた。


突然、倉庫の奥から微かな物音が聞こえた。藤崎は橘と顔を見合わせ、再び奥へと足を進めた。暗闇の中、何者かの気配が確かにあった。そして、扉の向こうから現れたのは――


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読者様向けメッセージ


「藤崎は警察に事件を任せましたが、23時の取引を巡る警察の動きは謎に包まれたまま、警察署は沈黙し、現場には混乱の痕跡だけが残されていました。遠山刑事たちは意識を失い倒れており、この夜に何が起こったのかは依然として不明です。そして、倉庫の奥から聞こえる何者かの気配――事件はさらなる混迷を深めています。」


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選択肢


1. 倉庫の奥に踏み込んで、気配の正体を確かめる。

2. 橘と共に警察に助けを求めに行き、現場を離れる。

3. 倉庫の周囲を慎重に調べ、何者かの罠を警戒する。


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