敵「相手がザコで助かったぜ。こりゃ余裕で勝てそうだな」(戦闘回-1)

「ったく…ずいぶん手間がかかっちまったなァ。


とあるビルの中。ある一室にて。

小太りな男が勝ち誇ったように笑っていた。

その足元には…


緑色の髪をした男と、小学生くらいの女の子が、血まみれになって倒れていた。

彼らはピクリとすら動かない。絶命しているようにしか見えない。

その中に……エルメスの姿だけは無かった。


***


僕たち三人はメールの指示通りに、敵の居場所へと走っていた。


「どうやら敵は向かいのビルにいるらしい。偵察部隊が良い仕事をしたようだな。」

「じゃ、さっさと終わらせるっスよ~!」

「あの…どうしても、僕も行かなきゃいけないですかね…?多分、何のお役にも立てそうにないんですけど…」


前を走る二人に、僕は水を差す。

僕だってこんなやる気のないバイトみたいなこと言いたくないけど、命がかかってるんだ。

二人は振り向いて僕を見つめた。そして悩ましい表情で首を捻る。


「うーん…本当はわたし達だってお前を戦わせたくはないんだが…フラッペの命令なんだ。逆らうわけにはいかなくてな。」

「フラッペちゃんってそんなに偉いんですか…?」

「あれ?エルメスくん知らないんスか?フラッペちゃんは組織のNo.2っスよ。俺たちは彼女の部下っス。」

「な、No.2…!?」


No.2と聞いて、僕は思わず絶句してしまった。

フラッペちゃんってそんなにすごい人だったんだ…

ますます彼女が自分から遠くなった気がして、僕はちょっと悲しくなった。


「本当にすまんな。お前だって嫌だろうに…おっと、どうやら到着したようだ。」


先頭を走っていた彼女が立ち止まる。

気がつけば路地裏から脱出していた。辺りは大通りだ。

太陽が眩しい。人がやたらと多い。

あぁ、シャバってこんなに賑やかだったんだなぁ…空気がうまいぜ!

刑務所に入ったわけでもないのに、僕はしみじみとそう思った。


「見ろ、例のビルってのはあの向かいにあるやつの事だが…刺客の姿は見当たらないな。」

「うーん…見た感じいなさそうっスけど。ホントに見たんスかね?見間違えじゃないんスか?」

「そんなわけあるかよバカ。ちっとは常識でモノを考えろ。しかし、確かに気配すら感じないな…」


二人は物陰からビルを見つめる。

しかしビルの中にも外にも、怪しそうな人間はいなかった。

もしかしてグリーンさんの言う通り、見間違えだったのだろうか?正直それは釈然としないが…


「ま、居ないなら居ないで良いんスよ。俺たちが仕事しないですむ…じゃ、じゃなくって、ムダな戦いを避けれるんスから!サボりたいとかでは断じてないんスけど!!」

「…サボりたいだけだろ。だが敵が居ないのは事実だ。ここは一旦退こう。あんまり人目が多い場所にはいたくない。」

「そうですね…」


敵がいないのではそもそも戦えない。

僕たちは再び路地裏へと戻ることにした。


その時だった。

後ろから何かの気配を感じたのは。


「………?」


僕はなんとなく振り向いた。こう、何というか言葉にしづらいんだけど…『悪意の端っこが、背中に突き刺さっている』みたいな感じがしたのだ。


「ん…何してるんだエルメス?さっさと戻るぞ。集団行動によそ見なんて論外だからな。」

「あ、いえ…なんか、変な気配がした気がして…」

「変な気配…?わたしは何も感じなかっ…」


二人が振り返った、その直後だった。



───パシュッ。

風を切るような音が聴こえてきて。

僕の顔のすぐそばを、何かがすごいスピードで通りすぎた。

僕は慌てて振り向く。一体、何が飛んできたんだッ!?

振り返った先にあったものとは………


───脚から大量の血を流す、グリーンさんの姿だった。


「ッ…いっ……つぅ……」

「ぐ…グリーンさんッ!大丈夫ですかぁッ!?」

「ち、チョー痛いっス…死ぬかも…」

「そ、そんな…!」


彼は苦しそうな表情で地面にうずくまった。

出血量がひどい。ズボンの膝のあたりが真っ赤に染まってしまっている。


「グリーン!そんな開けた場所で止まるなッ!また撃たれるぞ!」

「そ、そうっスね…」


ウィステリアさんは傷の心配などせずに、そう怒鳴りつけた。

グリーンさんは足を引きずりつつ近くのビルの陰に隠れる。

一気に緊迫した空気が流れ出した。


「グリーン、どこから撃たれたんだ?発砲音は聴こえなかったが…」

「わかんないっス…急に、脚に痛みが走って…気がついたらこうなってて…」

「そうか…だがしかし…この傷痕、何か妙だぞ。銃弾によるものとは違う。まるで、切り裂かれたかのような…」


ウィステリアさんは素早く周囲を見渡す。しかしいくら探しても、近くに敵の姿は見つからない。

そうこうしてる内に───

また、風切り音と共に"何か"が撃ち込まれてきた。


───パシュッ。

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