「写真の男は彼女の〇〇だよ。」

「あぁこの写真か…」


ウィステリアさんは写真を見ると、表情を曇らせた。


あのパーティーから数分後。

僕、ウィステリアさん、グリーンさんはカフェの裏に集合していた。フラッペちゃんはいない。

僕はこっそり、二人に写真の件に関する相談を持ちかけていたのだ。


「はい。この、男の人の顔にバツが書かれてる写真なんですが…これは一体なんなんですか?」

「これはだな…不安になるだろうから言いたくはなかったんだが…」


え、何…?そんな前フリされたら怖いんだけど…


「………殺されたんだよ。」

「えっ?」

「その男はフラッペに殺された。ちなみに、これはあいつの六人目の彼氏だな。」


彼女の口から、とんでもない発言が飛び出した。

その言葉に…僕は脳みそをぶん殴られたようなショックを受けてしまった。


前の彼氏さんが殺されていたこと。

しかも六人も連続で殺していたこと。


そして何よりも……フラッペちゃんに、元カレがいたってこと!!!


「なんて事だッ…僕が初めての彼氏じゃなかったなんて…!もう終わりだ…」

「いやショック受ける所そこか!?殺されてるって事の方がショックだろ!」

「男にとってはショックなんだよっ!好きな子の初恋になれなかったっていうのがっ!」

「あ~分かる!分かるっス!もしやエルメスくんも、好きな子の元カレのイン●タ調べちゃうタチっスか?俺と同じっスね!」

「グリーンさん…!分かってくれますか!」

「…わたしには理解できんよ…」


ウィステリアさんは呆れた表情で僕を眺めた。

これは男にとって重大な問題なんだぞ!


「そういえば、ここに"実験失敗"って書かれてるんですけど…これは何の事ですか?」


僕はふと、気になっていたことを聞いてみた。

処分ってのはまだ理解できる。しかし、"実験"って何だ?

まさか彼女は、マッドサイエンティストだったりして…

いやそんな訳ないか。

それについて聞くと、ウィステリアさんは複雑そうな表情を浮かべた。


「それについては…言えないな。申し訳ないが、企業秘密なんだ。絶対に言えない。」

「申し訳ないっス~…これ聞いたら多分エルメスくん、ショックでぶっ倒れちゃうと思うんで…」

「そ、そうですか…」

「どうしても知りたいなら…フラッペの"異能"が原因、とだけ言っておこう。」

「異能…?」


突如現れた"異能"というワード。いったい何の事だろうか?

僕は首をかしげた。


結局、実験のことについてはほとんど分からずじまいだ。

これで訊ける事はだいたい聞いただろうか?インタビューはこの辺にしとくか…


「ただ一つだけ…お前に伝えられることがある。」

「はい?」


そう思ってた矢先…ウィステリアさんがぽつりと呟いた。


「フラッペが前の彼氏を殺した理由を教えてやる…"弱くて戦力にならなかったから"だそうだ。」

「戦力に…?」

「ああそうだ。そりゃ、わたし達はいちおう犯罪組織だからな。ドンパチは日常だ。だから戦力は必須でな。」

「そうだったんだ…じゃあどれくらい強くなったら、フラッペちゃんは僕のこと気に入ってくれますかね?」


僕がそう質問すると、彼女は少し考えるような素振りを見せた。

そしてしばらく考えてから再び口を開く。


「少なくとも…わたし達よりかは強くないと困る、とアイツは言っていたな。」

「え~俺だってそんな強くないんスけどね~。幹部ってのも肩書きだけだし…」


なるほど…大体分かってきたぞ。

フラッペちゃんはどういうわけか、強い戦力を求めてるってわけだ。

しかも、幹部と呼ばれるこの二人よりも強い人材。

僕は…当然ながら強くなんかない。

正直フラッペちゃんに殺される未来しか見えない……


「…まぁ、わたし達も鬼じゃない。むしろフラッペの残忍さにはわたし達ですら手を焼いてるんだ。お前がヤバくなったら手を貸すよ。」

「ウィステリアさん…」

「俺もできる限り協力するっス。ま、殺されないようにせいぜい頑張りましょう!」


ウィステリアさんもグリーンさんも、揃って僕を励ましてくれた。

うぅ…犯罪組織の幹部の励ましだけど、心に染みる………

チョロい僕はいとも簡単に心を掴まれてしまうのだった。


「あ、ありがとうございますぅ…」

「あぁ気にするな。お前はただのカタギなんだから…っと、すまん。ちょっと電話する。」


彼女のポケットからバイブ音が聞こえた。

彼女は少しだけ僕らから離れて、電話に出る。


「もしもし…はい…はい。え?それはいつの事です?場所は…この近く?それはまたずいぶんと急ですね……」


ウィステリアさんは電話口の人としばらく話していた。

しかし徐々に緊張した表情へと変わってゆく。

しばらく話した後に、彼女は電話を切った。


「…噂をすれば、だ。グリーン、この近くに敵の刺客がやってきたらしい。わたし達で応戦するぞ。」

「え~マジすか。せっかくパーティーの気分だったのに~…」

「甘えた事を言うな。さっさと出るぞ、準備しろ。」

「あ、二人とも…行っちゃうんですか。」


二人の目に、冷たい眼光が宿る。

さっきまでの温厚な表情は一変し、"黒い仕事をする人間"の目になった。

僕はごくりと生唾を飲む。

やはり二人は、その筋の人間なのだ。


…ところで僕はどうすればいいんだろう?

戦うとか、そういうの全然できないんだけど…

そう困っていると、ウィステリアさんが話しかけてけれた


「おい、エルメス…お前はここに来たばかりの一般人だ。さすがに戦わせるわけにはいかない。だから、ここのカフェに残って…」


彼女がそこまで言ったところで…再び、スマホが鳴り響いた。


「ああもう、なんなんださっきから…ん?メールだ。なになに…」


ウィステリアさんは怪訝な顔でスマホを覗き込む。どうやらメールが届いたらしい。


「ふむ、あいつからか…んん!?……なんだってぇ!?」

「どしたんスか先輩?誰からのメールが届いたんスか?」


グリーンさんが心配そうに呼びかける。それに対して彼女は、無言で画面を見せてきた。

そこには…とある一つのメールが表示されていて。


差出人には…『激カワ天使☆フラッペちゃん』と書かれていた。


件名:エルメスくんも戦わせてよ

本文:もしもし~!さっきの報告聞いた?近くに刺客が来たんだって~!こわいね~!それでさ、もしよかったらエルメスくんも一緒に戦わせてみない?殺し合いでもさせてみようよ!それじゃよろしくね~☆


「………………………………」


僕達三人は、顔を見合わせた。

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