【悲報】元カレいた説浮上…?【フラッペちゃんに】

「それじゃ…二人とも、彼に挨拶と自己紹介してね!あ、異性の好みとかも教えてくれたら嬉しいな~♪」

「なんか飲み会みたいなノリっスね……」

「………あんまり無駄な時間を使わせるな。とっとと済ませるぞ。」


女の子の方はそう言って、自己紹介を始めるのだった。


「あたしは"ウィステリア"……まぁ、見ての通りこの組織で勤めてる、幹部だ。一応よろしく。」

「ウィスちゃんはね、ちゃっちゃく見えるけどすごく頭いい子なんだよ~!」

「おい、子供扱いするな!あたしは幹部だぞっ!」


フラッペちゃんが、ウィステリアさんの頭をポンポンと撫でる。

ウィステリアさんはがうがうと吠えたてるが、どうしても可愛く見えてしまう。ここだけ見ればまるで親子だ。

しかし本当にこんなに小さな子が、犯罪組織の幹部なのか…?小学生に見えるけど実はけっこう老獪なのかもしれない。


「そんじゃ、次は俺っスね。俺は"グリーン"。髪の毛がこんな色だからそう呼ばれてるんスけど…ま、仲良くしましょうね、エルメスくん!」

「あ、はい。よろしくお願いします!」


グリーンさんは朗らかに挨拶してくれた。僕も素直にお礼する。

よかった、この人は親切そうだ…

正直、殺人鬼やら幹部やらの中では、この人がいちばんまともに見える。僕と同じ波長すら感じた。

よし、なるべくこの人と仲良くしていこう……

と思った矢先だった。


「……ん!?おい、グリーン!何だこれは!?」


ウィステリアさんが自分の携帯を見ながら叫んだ。

僕らはその画面を覗き込む。画面には、某つぶやき系SNSのアカウントが映っていた。


アカウント名:ぐりーんのうらあか

『新人教育とかダルすぎ~。忙しいのに死ねマジ』


「…これ、お前のアカウントだろ?」

「あ、いや~ちょっと…知らないっスね。誰っスかこれ?」

「お前、三日前に自分のアカウントだって言ってたろ!!組織の情報は外に漏らすなって、いつも言ってるじゃないか!!」

「あれ~?そうでしたっけ……ま、ツイ消しするんで忘れてくださいっス。」


彼は何一つ悪びれず、自分のスマホを操作した。

すると先程の呟きがふっと消える。たった今削除したようだ。


「………………」


僕はしばらく、唖然とした。というかウィステリアさんも唖然としていた。

ただグリーンさんだけが、平然とスマホを弄っている。


………ま、まともだと思ってたんだけど………全然まともじゃなかった……

そもそもこんな組織にまともな人間なんかいるわけない。期待した僕がバカだった。


「うんうん。みんな自己紹介が終わったね!みんな仲よしでいい職場でしょ?ね、エルメスくん!」

「どこがだよ…バカとバカしかいない職場の間違いだろう。あたしはもうウンザリだ……」

「まぁまぁ、そんな暗いこと言わないでくださいっス。元気出していこうっス!」

「いやお前のせいだろっっ!!」


ウィステリアさんは思いっきりジャンプした。そして高さを合わせたところで、グリーンさんの頭に拳を叩き込んだ。

痛いッスよ~、と言いながら彼は涙目になった。


な、なんて騒がしい場所なんだ……

あまりの騒がしさとバカバカしさに、僕は面食らってしまった。ここ、確か犯罪組織だったよな……?

しかし…そのやり取りを見て、安心を感じてきているのも事実だった。


犯罪組織と聞いて少し………いや、めちゃくちゃ不安だったけれど。

思ったよりも大丈夫なのかもしれない。

だって、こんなに愉快な同僚がいるんだから。


「……ね、どう?馴染めそうかな?エルメスくんもすぐに仲良くなれると思うんだけどさ……」

「……うん、全然いけそうだよ。まだちょっと怖いけどね………」

「ほんとっ!?あぁ、よかったぁ……!私、喧嘩しちゃったらどうしよ、ってずっと思ってて…」


フラッペちゃんは胸に手を当て、ほっと息を吐き出した。心から安心したって様子だ。

それを見て僕は……この子は本当に悪者だろうか、と考えてしまった。

だって彼女は、ずっと僕の事だけを考えてくれてるのだ。本当の悪者が、こんなことするだろうか?


(………もしかして、殺人鬼って話はウソなのかも…路地裏の件も、僕の勘違いだったりして…)


いつしか僕の思考はそんな方向に傾いていた。ちょっと優しくしてもらっただけで、僕はすっかり油断してしまっていたのだ。


だからだろうか。


ソファの下から、何かの紙がはみ出しているのに気づいたのは。


僕は不思議に思ってそれに手を伸ばす。

なぜか、周りに気づかれたくはなかった。


拾い上げた紙をこっそりと広げる。皆に背を向けて、僕にしか見えないようにしながら。

それは………写真だった。

二人の男女が写った写真。

女の方はフラッペちゃんだった。もう一人は知らない男。

しかし男の顔には、大きな『×』が書かれていて。


『彼ピッピ6人目 (処分済み。実験失敗。うまく感染しなかったので。)』


マジックの文字でそう書かれていた。


………彼ピッピ?

………六人目?

………処分済み?


書かれていたのは、物騒な言葉ばかり。

僕は彼女の顔を見た。

相変わらずの可愛い笑顔。その顔には裏なんてありそうにない。


しかし。


じゃあこの写真に書かれてることって…いったい…?


「あ、エルメスくん。よかったら写真撮らない?」

「えっ…ど、どうして…?」

「どうしても何も…記念撮影だよ?嫌なの?」

「い、いやってわけじゃないけど…あの、この写真…」

「ほら、もうカメラのカウント始まってるよ!エルメスくん笑って笑って!」


僕は流されるままに笑顔を作る。

直後、まばゆいフラッシュが目に刺さった。


「…お、よく撮れてるじゃーん!でもエルメスくんの笑顔…ちょっとぎこちないなぁ。ま、いいや。」


彼女は写真を見せてくる。そこには当然、僕と彼女のツーショットが写っていた。


僕は手元の写真と見比べる。

顔にバツが書かれた男。不細工な笑顔を浮かべる僕。


───僕の顔にも、いつかバツが書かれるの?


そう聞こうとしたけど、怖すぎるのでやめておいた。

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