好きな人が血まみれで立ってます。さすがに引きます。

「おっ、そんなとこで何やってんだエルメス。まーたあの子をつけ回してんのか?」

「うわっ!?び、びっくりした……今いいとこなんだから、ジャマしないで!」


背後から突然声をかけられて、僕は飛び上がりそうになった。

慌てて振り向くと…そこにはしたり顔を浮かべた男が立っていて。

こいつは僕の友達のジョンだ。


「いいとこって……友人のストーキングを見過ごすわけにはいかねぇなぁ。」

「いやいや、ストーキングじゃないから!僕は今忙しいんだ……"心の準備"をするのにね。」

「心の準備ぃ?なんだそりゃ……いったい、何に対する心の準備なんだよ?」


やれやれ。こいつは何も分かっちゃいない。

男の子が心の準備をする時っていったら、もう一つしかないじゃないか!


「そりゃ決まってるでしょ……"告白"だよっ!!告白して、男の人生にとって最大の幸福を掴むんだ!」


僕は声高々に宣言した。自分の崇高なる目的を。

しかし、ジョンには響かなかったようで。


「いやムリだろ。悪いこと言わねーから諦めとけ。」

「いや即答!?」


返ってきたのは、シンプルな否定の言葉だった。

うぬぬ…どうして僕の情熱が理解できないんだ……


「だってよ、あの子、クラスじゅうの男子からモテてるマドンナだぜ?エルメスなんか相手にされないだろ……」

「うぐ…そ、それは分からないぞ!もしかしたら、僕に振り向いてくれるって可能性も……」

「でもお前、顔そんなに良くないじゃん。普通くらいじゃん。」

「………いや、顔だけじゃないから!僕はほら、内面で語るタイプだから!」


うむぅ……なんかもう既にモチベーションが無くなってきた。

っていやいや!挑戦する前から諦めてどうする!

例え恋が叶わないとしても、僕は戦わなきゃいけないんだ!


こんな所でジョンと喋ってても仕方ない。

ようし、もうそろそろ彼女に告白しにいくぞ!

僕は大きく息を吸いこむと、物陰から飛び出した。

待っててフラッペちゃん、どうか僕の気持ちを受け取って───


「………って、誰もいないっ!?」


僕はとびきり間抜けなポーズになって、ずっこけた。

ベンチに座ってたはずの彼女の姿が消えていたからだ。


「ふ、フラッペちゃんはどこに…」

「あの子もうどっか行ったぞ。昼飯にでも行ったんじゃないのか?」

「そんな……!い、急いで追いかけなくちゃ!」


しまった。モタモタしてる内に見逃してしまったのか。

僕は慌ただしくも、彼女の後を追うことにした。

***


「はぁはぁ……こっちの方に行ったって聞いたけど……」


僕は息を切らしつつ、大通りへと駆けつけた。

まさか見失うとは……愛してると言っておきながら、情けない!

早く見つけて、告白しやすそうなスポットにでも連れていかなければ………

そう思いつつ僕は辺りを見渡し、彼女を探す。

すると………見覚えのあるゴスロリが視界に入った。


見つけた!

間違いない。フラッペちゃんだ。良かった、すぐ見つかって……

そう思っていた、束の間。


「……だからぁ、ついていくのは嫌だって言ってるじゃないですかぁ……」

「黙ってついて来いよ。ガキが逆らうんじゃねぇ……」


僕は見てしまった。

パーカーを着た、粗暴な男が…彼女の手首を掴んで。彼女を無理やり、路地裏に連れ込んでいるところを。


……え?な、なにをしているんだ?

なんか見た感じ…まずいことをされてたように見えるけど。

二人は路地裏の奥へと引っ込んでしまった。

………この辺りでもいちばん一目につきにくい路地裏へ。


僕は、猛烈に嫌な予感を感じていた。


心臓が早鐘を打つ。

もしも彼女が、あの男に襲われたりでもしてたらと思うと……凄まじい嫌悪感と怒りが湧いてきた。

そんな矢先…僕はさらに恐ろしいものを見てしまう。


「え…あ、あれって……血……?……う、嘘だよね…?」


路地裏に続くビルの物陰から……赤い水溜まりが、ゆっくりと広がっていくのが見えた。

それは地面の油溜まりと混ざって、くすんだ虹色の光沢を放っている。


僕の頭から、血の気が引いてゆく。

もはや路地裏を確認しようという勇気すら失せかけていた。

しかし、ここで引くわけにはいかない。

僕は意を決して……路地裏の向こう側を覗き込む。


すると。

そこには───信じられない光景が、広がっていた。


「た…たす……け……っ……」


僕の目の前には。

赤々とした、真っ赤な水溜まりが広がっていて。

血の池地獄となった、その真ん中には。


血まみれの男が、倒れていた。


………そう。

フラッペちゃんじゃなくて。男のほうが。血を流して倒れていたのだ。

その身体には無数の刺し傷があり、とても生きているとは思えない。


そして…恐らくは、"元凶"と思われる存在が。路地裏の奥に立っていた。


「……あれ、エルメスくんだ~。こんなところで何してるの?」

「………ぁ…………え……っ?フラッペ……ちゃん………?そ、その人、ころし……な、なんで……」


マスクに返り血を浴びながらも、無垢な表情を浮かべるのは。

───世界一可愛い、僕の想い人だった。

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