第30話:訪ねてきた男。

ある日、健斗のアパートに白髪交じりのざんばら髪に黒の山高帽子を被った

黒服の怪しげな男が訪ねてきた。

右手に先んぽが曲がりくねった杖を持っていて左手にはパイプを持って、

それをプカプカ燻らせていた。

痩せていて顔色がすごぶる悪く目は細く、わしっ鼻・・・まるで死人みたいな男だ。


右手に持っている杖は(ヘルモスの杖)と言って本来はゼヌスの持ち物のひとつだが

訳あって、なぜかその男が持っていた。

ヘルモスの杖は、主に悪霊払いや迷える魂を浄化するような時に持ちいたりする。

また異世界と人間界を行き来できる扉を開くためにも使うらしい。


この男はその杖を使って人間界へ来たんだろう。


「おじゃま・・・」

「おじゃまひまふ」


「は〜い」


その日は、たまたま健斗が出かけていたためパンが対応した。


「ベンジャミン?・・・」


「あなた人間の格好なんかしたって、すぐ分かりますよ」

「って言うか・・・なんでそんな格好してるんですか?」


「どうせなら紳士的な格好のほうがいいかと思いまひてね」


パンは、はその黒服の男をよく知っていた。

人間の格好なんかしてるけど、本当の姿はサチュロス「山羊」

パンがベンジャミンと呼んだ男はクレタと言う森に住むドロ沼の精霊で普段は

ゼヌスの小間使いなんかをしている。

いつもは裸で過ごしているが今いるのは人間の世界なのでちゃんと服を着て

いるのだ。


「よくここがわかりましたね・・・それでなにしに来たんですか?」


「ゼヌス様の言いつけれ・・・あなたを探しに来まひた」

「れふけろ、あなたが人間界に来てるとばかり思っていたら、ワテが人間界に

来る方が早かったみたいれふ・・・」

「あなたはワテが開けた次元トンネルを通ってゴミ箱から来たようれ・・・

ワテと行き違いになったようふ・・・」


「そう、ベンジャミンが開けたのね・・・封印できてないから、私すぐ来ることが

できましたよ・・・中途半端〜」


「まあ、ワテは未熟なだけれふよ」

「とにかく、あなたにゼヌス様の伝言を伝えにここに来たんれふよ」


「ゼヌス・・・しつこい人ですね・・・私はもうこっちで好きな人ができ

ちゃったんですからいい加減諦めてもらわないと・・・」


「ああ、それれふけど・・・」

「まあ、あの方もしつこいれふからね・・・ってそうじゃなくて・・・」


「おバカさんですね、無理に探さなくてもいいのに・・・」

「ゼヌス様に探せって命令されたら断れる人は少ないれふからね」


「ベンジャミン日本語おかしくないですか?」


「ああ、前歯4本、上も下もないんれふよ・・・」

「だから、しょべりずらいんれふ」


「それでベンジャミンもあっちの世界に私を連れて帰ろうと私を探してたん

ですか?」


「いやいや、そうじゃなくて・・・あなたを連れて帰るつもりはありましぇん」

「だからあなたを探すのもう諦めようかと思った矢先ワテの使い魔が、ここを探し

当てたんれふよ」


「ああ、ワタリガラス・・・」

「最近カラスが、やたらうるさいと思ってたの・・・」

「ゼヌスのバカは、私のことなんかとっくに忘れてるのかと思ってました」

「やめてほしいですね、私、今平和に暮らしてるんですから」


「ゼヌスのバカに伝えてくれませんか?

「私のことなんか忘れてオランパスの山で、おネエちゃんの尻でも追いかけて

ろって・・・」

「私は、あなたのところには帰りませんからって・・・」


「そんなこと自分で言ってくらはいよ」

「とにかくワテはゼウスのバカ・・・様にあなたの居場所を一応報告しまふからね」

「だいたい人間の世界で暮らすなんてありえないれすよ・・・」


「私には曽我部っちって言う愛しい人がいるんです」

「そう言う事情だからベンジャミンにも、もう用はありませんから帰った、帰った」

「シッ、シッ」


パンは野良犬でも追い払うように言い放った。


「汚いものみたいに・・・分かりまひた」

「とりあえず今日は帰りまふけど・・・ワテもこのままタダで帰る訳には行き

ましぇんから」

「ってことれ、明日という日にまた来ますったら・・・」


そう言って死人みたいな男はスゴスゴ帰って行った。


そして次の日の朝早く、またベンジャミンが健斗のアパートにやってきた。

この日は、ちょうど健斗が大学が休みだったので家にいた。

だから今回は健斗が出た。


「誰?大家さん?・・・宅配?」


つづく。



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