第29話:パンの真実。

パンがゴミ箱から出てきて健斗と同棲をはじめて約半年ほど経っていた。


健斗が大学へ行ってる間もバイトに行ってる間もパンはもう自由に外にも出て

いたし買い物にも出かけられるようになっていた。

健斗もパンを束縛したりはしなかったしパンの自由にさせていた。


他の男を誘惑しないか心配はあったが、見張ってるわけにはいかないしパンを

信じるしかなかった。


パンは宅配のお兄さんが来ても外で男を見ても誘惑したりはしなかった。

吉岡君が鼻の下を伸ばして時々アパートを訪ねてきたが相手にはしなかった。

冗談でセックスする?って挑発したが、本気じゃなかった。

今のパンは健斗一筋なのだ。


ニンフと言えど貞操観念はちゃんとあるわけで浮気なんかしたら健斗を

裏切る行為だと・・・健斗を失うことはそれは自分自身の破滅だとパン

は思っていた。


パンが浮気をしないって決心したのにはそれなりの深い理由があったからだ。


それはパンが自分の異世界にいた時の話。


ある日、魔物が棲むと言う森に貴族のアルベルトという男が迷い込んできた。

小さな泉まで来たアルベルトはそこで、ひとりのニンフと出会う。

そのニンフの名前はパンと言った。

アルベルトは一晩の宿をパンに求めた。


アルベルトはパンの住処に一晩泊めてもらうが不思議な少女パンの魅力に、

たちまち恋に落ちてしまう。

ふたりはお互いを求め合い肉体関係を持つ。

もともとニンフに誘惑された男はその魅力から逃れるのは難しい。

ニンフの甘い吐息には神以外は誰も逆らうことはできないのだ。


ついにパンと結婚したいと言い出したアルベルトはパンを連れて無理やり

森を抜けて町へ連れ帰ってしまう。


実はアルベルトにはすでに妻がいてアルベルトの帰りを今か今かと待っていた。

アルベルトがパンを連れて帰ったことで妻は失望するもののパンをアルベルト

の目の届かないところに追いやってしまう。


パンから引き離されたアルベルトは一時の迷いでニンフに惑わされたんだと

思い込んでしまう。

そしてアルベルトはパンを探すことをやめて妻のところに戻ってしまう。

やがてアルベルトはパンのことなど忘れるように妻との愛を育んでいく。


自分を迎えに来ないアルベルトに裏切られたことをアルベルトの家の庭の

木の妖精から聞いたパンはアルベルトに裏切られたと知って、悲しみを

忘れたくて、つい出来心で街の青年と浮気をしてしまう。


それを知ったアルベルトはパンに罵声を浴びせて冷たくあしらった。

たしかに浮気をしたパンにも非はある・・・だけど一度は結婚まで約束して

街まで連れ帰っておきながらアルベルトは自分を捨てた。


せめて最後にお別れのクチづけをと、パンはアルベルトに求めるとアルベルトも

これが最後とパンの要求に応じた。

別れの接吻・・・それがニンフの死の接吻とも知らずに・・・。

アルベルトはパンとクチづけを交わしながら彼女のその腕の中で息絶えた。


そういう痛ましくも悲しい思いをした経験があったからパンは二度と浮気は

しない、たとえ相手に裏切られたとしても自分は愛する人を裏切らないと

誓ったのだ。


もう二度と同じ過ちは犯さない。

健斗との幸せをパンは失いたくなかった。


だからパンは真っ直ぐに健斗一筋なのだ。

もし健斗が自分を裏切ったら一緒に死のうとさえ思っていた。


パンの過去の悲劇なんか知らない健斗はパンがいる毎日が楽しくてしょうが

なかった。


あ、パンが健斗とチューする時は憎悪のない美しいキスだから健斗は

死んだりしないのです。

健斗がワインを裏切らない限りね。


つづく。



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