第24話:出ないよ、アレルギー。

「うん、来て来て・・・ほら来て、思いっきり抱いて」


「で、でもな〜・・・」

「あ〜あ・・・俺って好きな子にも触れられない、抱きしめることもできないんだ」

「そんなんで生きてるって言えるのか?・・・」


「今までだってそうだよ、好きな子ができたって何もできなかったし・・・」

「将来、何かになりたいって夢もないまま敷かれた線路をただ走ってきただけだ

もんな」

「何も変わらない毎日を淡々と過ごして来た・・・」

「俺にいったい何があるんだろ・・・時々自分が生きてる意味ってあるのかなって

思う時があるよ」

「誰にも必要とされてないし俺なんかいなくても誰も悲しまないし・・・」


「そんなことないと思います」


「あ、ごめんな・・・愚痴っちゃって・・・」


「うう〜ん、いいんです・・・でもね」

「この世にいないほうがいいなんて人、ひとりもいないと思います」


「えっ?」


「お味噌汁の中のお麩だって、お豆腐だって、おでんのコンニャクだって」

「別になくてもいいって思うでしょ・・・でもあったほうが幸せじゃないですか?」


「なに、それ?、俺って味噌汁の具?・・・」


「たとえばの話です、そこはどうでもいいんです」


「ですからね、みんな必要だからこの世に生まれてきたんですよ」

「私だって曽我部っちがいたから、ここで幸せに暮らせてるし、あなたを好き

になれたんです」

「それって、とっても意味のあることだと思いません?」


「もし、この世に曽我部っちがいなかったら私は、路頭に迷って今ごろは野垂れ

死してたかもですよ」

「それに吉岡っちだって大家さんだって曽我部っちのお母様だってあなたの

お友達だって曽我部っちがいなくなったら、みんな悲しむと思います」


「曽我部っちが生きてること自体が誰かを幸せにしてるんですよ」

「ですからね、いなくていいなんてことないんです」

「生きてたら辛いこともありますけど楽しいことのほうがたくさんあるでしょ?」


「ね、そう思いません?」


「あはは、いや〜まいったな、パンにいさめられるとは思わなかった」

「パンはすごいな・・・しっかりした考え持ってる、考え方が素直なんだな、

君はすごいよ」

「そうだな・・・そうだよな、たしかにな・・・」

「生きてるだけで丸儲けって・・・誰か言ってたけどパンの言ったとおりだよ」


「それに・・・曽我部っちがいなくなって一番生きる意味を失うのは私だと

思いますけど・・・」


その言葉を聞いて健斗の目に涙が溢れそうになった。


「ああ、その言葉が一番、俺の胸に突き刺さるわ・・・」

「ありがとうパン」

「俺の同級生の女子にだってそんな優しいこと言われたこと一度もないや」


そう言っ健斗はジンマシンが出るのもかまわずパンを優しく抱きしめた。

とうせんジンマシンが出ると思っていた。

でも、何分経ってもジンマシンが出ない・・・どころか、アナフィラキシー

ショックにさえならないし発作も起きなかった。


「うそ・・・でないよジンマシン・・・」


健斗の世界が今、大きく開花した瞬間だった・・・。

健斗は毎日パンと暮らすことでパンに対して少しづつ免疫ができていたの

かもしれない。


その夜、パンを抱きしめてアレルギーが出なかった健斗は、そのままの流れで

パンと結ばれたいと思った。


つづく。



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